暖炉のある世界
「なろうラジオ大賞5」応募作品です。
テーマは『暖炉』。ちょっとした日常を切り抜いたお話です。
断崖絶壁のギリギリに建てられた山小屋には部屋がひとつしかなかった。
エルフの子が尋ねる。
「師匠。なんで、こんな崖のギリギリに建ってるんですかね?」
「さあな。死体を簡単に片付けられるからじゃないか」
「こ、怖いことを言わないでくださいよぅ」
エルフの子供は、凍死した肉体が無造作に谷底に捨てられる様を想像して身震いする。
窓の外では、闇雲に地表を均そうとする分厚い白が、闇に抗っている。
殺風景な部屋には暖炉しかなかった。
「近すぎるぞ」
師匠の言葉にエルフの子供が振り返る。
「だって、まだ顔が冷たいですもん」
暖炉に前のめりなエルフの子供は、赤くなった頬を膨らませる。
せめてもの抵抗だ。
師匠が呆れる。
「暖炉との距離感に正解は無いよ」
暖炉の炎は不安定だ。
そのため、近すぎると熱いし、離れすぎると暖を取ることができない。
エルフの子供は、座る位置をこまめに変えながら暖炉との距離を測ろうとする。
「静かですね。師匠」
「そうだな」
無口な積雪は、音を伝える気など毛頭なく、物音をひとつ残さず隠ぺいしようとしていた。
そのせいで、この部屋は完全に孤立している。
エルフの子供は、膝を抱えて炎に見とれる。
「赤、オレンジ、黄色……色々ありますね」
「ああ。場所によって異なる」
「パチパチって音を聞いてると……眠くなっちゃいますよ」
「単調な音は呪文と同じだ。油断していると幻術にかかってしまうぞ?」
エルフの子供は、乾いた木片を摘まんで暖炉に放り込む。
木片は、すぐに火に纏わりつかれて、取り込まれてしまう。
その分、火の勢いが増したようだ。
師匠は複雑な表情を浮かべる。
「燃料を与えると良く燃える。簡単すぎるほどに」
エルフの子供は「難しいですね」と、呟く。
師匠は頷く。
「暖炉の火はヒト族と同じだ。そんな彼等と、つかず離れずというのは難しい」
「師匠でも?」
「ああ。暖炉との距離感に正解は無いよ」
そう言って師匠は、やれやれといった風に、異形なる角を揺らせた。
「この世界には暖炉しかないのにな」
短編投稿は初めてです。
なろうラジオ大賞に参加してみたくなったので書いてみました。
エルフの子供が見ていたのは暖炉。
しかし、師匠が見ていた暖炉は人類、文明……。
その視点でもう一度読むと違った印象になるかもしれません。




