表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/34

前編04 蛭尾①

 車を駐車場に止めるとトレンチコートを羽織り、病院に入った。

 

 私の名前は蛭尾ひるお。大学の教授兼物理学研究所の所長をしている。


 私は、弘子君からあらかじめ聞いていた病室名を受付に告げると、急いでエレベーターに乗った。


 すごいことが起こった。気が競る。

 あれは、あの写真が本当なら「彼女」は……。


「蛭尾所長、お疲れさまです」


 病室に入ると弘子君が迎えた。

 いつ見ても綺麗だ。


「所長、お昼は?」


「ああ、済ませてきた」


 弘子君の横には不安そうな顔をした若い男性。どことなく弘子君に似ている端正な顔立ちだ。


「弘子君の弟の信太朗君だね。初めまして、蛭尾です」


「ど、どうも信太朗です。姉がいつもお世話に……」


「早速状況を把握したい。「彼女」は目を覚ましたかい?」


「いえまだ……。命に別状はないようですが?」


「ふむ。近づいても?」


 信太朗君は弘子君の方をちらりと見る。

 彼女がうなずく。

 ベッドの上の少女の顔をじっと見る。

 美しい少女だ。この少女があの人だとすると。

 イメージはぴったりだが……面白い。


「なにかおかしいんですか?」


 思わず微笑んでいたらしい。意外に目ざとい少年だ。


「失礼。いや、美しい少女だと思ってね」


 病室を見渡し、彼女の来ていた服と持ち物を手に取る。


「弘子君。これが例の笛かね」


「はい、所長」


 病室内の椅子に腰かけると、口ひげをなでた。


 信太朗君は不安そうで、しきりに貧乏ゆすりをしている。

 彼の不安が限界する前に話をしよう。信じてもらえるかな?


「信太郎君、今の時点でわかっていることが3つある。」


 私は赤い絹袋の中から横笛をそっと取り出す。


「まず一つ目。例の車につけた装置、タイムマシンは、私と弘子君で開発途中のものだ。試作品を弘子君の車に取り付けてある。起動させないように伝えておいたのだが……。」


「「すいません!」」


 姉弟が同時に謝罪する。


「いや。私もまさか本当に発動するとは思ってなかったからね。」


「え?」


「いや。えっとまず一つ目。あの装置はタイムマシンだ。そしていつの時代にでも行けるものではなく、同じ時代にしか行けない。」


「行先は固定されているということですか?」


「そう。二つ目。この装置を動かすには、特別な燃料がいる、それはすぐに手に入るものじゃない。装置の調整にも日数がかかる。」


「すぐにはこの子を返してあげられないのですね」


「三つ目だが……」


 私は傍らの少女と笛をもう一度見た。


「この子は、平安時代末の武将。平家の公達。平敦盛たいらのあつもりだ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ