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後編02 熊谷次郎直実③

「こんな夜更けに何の騒ぎだ!」


 熊谷直実は、慌てて飛び込んできた息子小次郎に尋ねる。


「はい、どうやら当家に盗賊が入り込んだようで。」


「盗賊?わが屋敷なんぞに入り込んで、いったい何を盗んだのじゃ。」


「それが、納戸の中はほとんど荒らされておらず、父上が拝領した例の笛がなくなっておりました。」


「なに?あの笛が?」


 直実は、一の谷の戦いの恩賞に、敦盛の「青葉の笛」を所望した。

 自らの財とするのではなく、戦のほとぼりが冷めたら、人をやって屋島にいるであろう、敦盛の父親にお返ししようと考えたからである。


 恩賞に笛をもらったというのは、御家人の中でも噂になった。それを聞きつけて盗み出したのだろうと直実は思った。


「追いかけてとらえるぞ、どちらに逃げたかわかるか?」


「竹林のほうで人影が見えたと、下人が数名追いかけております。」


「よし、馬を出せ!」


 外は雪が降り始めていた。


 あの笛がなくなったとあらば、敦盛殿にも経盛殿にも申し訳が立たない。直実はあの時見た敦盛の美しい顔を思い出しながらそう思った。


 この笛は、自分が守り、帰すべきところへ返すべきだ。

 直実は固く心に誓うのだった。


 直実と小次郎が下人を引きつれ竹林に急ぐと、5人ほどの盗賊らしきものたちが、ひとりの武者と戦っている。


「あっ!あの武者は!?」


 忘れもしない、一の谷の戦いの最中突如消えた少女……もとい、平敦盛公だ。

 髪は総髪にし、後ろに束ねている。

 あの時の装束を着ているが、どこか雰囲気が変わっているようだ。


 先行した下人どもの話では、すでに2人斬ったそうだ。


 さらに驚いたことに、敦盛の後ろには、あの妙に愛嬌のある若い男が奇妙な棒を持って賊と交戦している。

 

「者ども、賊を討ち取れい!!」


 直実は刀を抜き、追い付いた下人たちを引きつれ、竹林に突っ込んだ。

 背後を疲れた盗賊どもは一人を除いて直実たちに討ち取られた。

 一人は事情を聞きだすため、生かして捕え、屋敷に引き立てる。


「さて。」


 刀についた血のりを、盗賊の服で吹き、刀を収めた直実は、敦盛たちの方へ体を向ける。


「平敦盛公ですな。一瞥以来です、熊谷次郎直実でござる。」


 いきなり名前を当てられたのが意外だったのか、敦盛は少したじろいだが、すぐに気を取り直して直実を見た。


「熊谷殿、お久しゅうございます。」


 後ろの妙な衣服を着た背の高い男が直実の方を向き、お辞儀をする。

 あの時に会った、どことなく愛嬌のある顔をした若い男だ。


 「まずはわが屋敷にお寄りくだされ」

 

 直実は馬を引き、二人を屋敷へ案内した。


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