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前編14 スティーブ・アンダーソン少佐①

「まったく最近の新人どもは根性がない。」


 俺はビールのお替りを注文するとボブにこぼした。


「新人どもが鼻ったれは昔からだぜ、アンダーソン。お前もそうだったろ。」


「違うんだボブ。俺は意気込みの事を言ってるんだ。何のために軍事訓練を受けるのか。わからずに入隊してくる奴ばかりだ。」


 そういうと俺は、3倍目のジョッキを空けた。


 俺が所属している傭兵育成キャンプは、アメリカでも厳しいので有名だ。

 しかし、世界の紛争も少なく小規模になり、紛争があっても、重火器やドローンなど、遠隔攻撃が中心だ。

 俺のような接近戦・肉弾戦を得意と知る軍人は時代遅れだ、訓練の依頼も減っているし、あっても興味本位か体力作り目的ばかりだ。


「そういえばアンダーソン。昨日3か月コースに申し込んできたジャパニーズが、接近戦を習いたいらしいぜ。ボスはお前に任せたがってる」


「ふん、俺はジャパニーズが嫌いだ。その依頼は断ってくれ。」


 どうせ軍事オタク野郎が興味本位で応募してきたに違いない。そんな奴の面倒は俺はごめんだ。


「ゲロゲロゲロ……」


 その一週間後、そのジャパニーズは、いま俺の目の前で、本日3回目の嘔吐の最中だ。

 毎日10回は嘔吐し、2回は気絶する。


「シンタロー!走り込みだけで毎日へばっているようじゃ先が思いやられるぜ。悪いことは言わねえ。日本に帰りな!」


 シンタローは口に着いたゲロを拭い、落としたメガネを着けなおしながら俺を睨みつける。


「……やっとここまで来たんです。ここでは終われないんです。」


 背は日本人にしては高い方だが、筋肉はろくについていないし、基礎体力もない。

 たまにこういうやつが興味本位で、入隊してくるが、大抵は興味本位だ。

 最近はやりのサブカルチャー系コミックの影響らしい。奴らはゾンビやゴブリンを倒すことを目的としている。


 入学金は先払いなので、そんな奴らがいつ辞めてしまっても俺はかまわない。

 学長にはどやされるが、知ったことか。


 「シンタロー、貴様はどうしてここまでする。金か?」


 「……いえ。」


 「ゾンビやゴブリンを倒したいのか?」


 「……何ですかそれ?」


 「じゃあ女か?」


 シンタローはやたら人懐っこい顔を上げ、無理やり笑いながら言った。


 「助けになってあげたい人がいるんです。守ってあげたい人が。その人は僕より年下なのに、生まれて来てからの使命に縛られています。」


 「使命だと」


 「僕はその人を守り、その使命を成し遂げてあげて、自由にしてあげたいんです。その為には何でもします。」


 「……」


 「彼女が僕を変えてくれた。僕はもっと強くならなくちゃ駄目なんです。」


 俺は少しうれしくなった。


 「なあ、シンタロー、その女は美人か?」


 奴は、即答した。


 「はい。美人です。というより可愛らしいところもあります。目は大きいのですが紅眼です。凛とした輝きがあります。唇は少し厚めの桜色で、髪は……」


 「わかった。わかった。お前も相当気持ち悪いな。」


 「よく言われます。」


 「その女に惚れてるんだな?」


 「はい。」


 シンタローはメガネを直す。


 「わかった。俺がお前を、その美人の役にたてるように鍛えてやる。重火器以外の対人戦闘術でいいんだな。」


 「はい!アンダーソン少佐。よろしくお願いします。」


 こいつの覚悟はわかった。

 今まで何人も見てきた、戦士の面構えだ。


 俺にできる事は、こいつを本物の戦士の身体にしてやることだ。

 明日からの特訓を、予定の倍の量に増やすことに決めた。


 死んじまうかもしれないが知ったことか。

 男には、死に物狂いにならなきゃいけない時があるんだよな。シンタロー。


「休憩は終わりだ。腕立て300回!」


 その日シンタローは、7回吐いて3回気絶した。

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