大岡越前 名裁き
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けたたましい目覚まし音を聞いて目覚める。
「起こせ起こせーー♪ マサヒコが起こしてくれないと遅刻しちゃうぞー! 早く起こしてー! 起こすと喜ぶぞー! 嬉しいぞー!」
実に、けたたましい。
目覚まし音とは思えない程だ。(けたたましいなら目覚ましとして合ってるのでは?)
いつもはこの目覚まし音が鳴る前に目が覚めるから、本当はこの声に目覚ましの効果なんかない。
ただの朝のルーティンだ。
でも、今日の俺はまだ眠っているようだ。
『18歳になるまでにマサヒコの本当のいちばんになったら、私マサヒコのそばからいなくなる!』
声の主が発したセリフだ。
どんな理由があるのか硝子は話したくないと言い張るから、詳しく聞けない。
理由を尋ねた瞬間にいなくなったりされたら俺は立ち直れない。
聞いても聞かなくても硝子を傷つけてる気がして、最近どう接して良いかわからない。
どういう意味なんだよ硝子。
俺のいちばんってなんなんだよ。
疑問符が頭の中を埋めつくした時に気絶する前にしたやり取りを思い出す。
『ああそうだ! お前がスライムに服溶かされるとこも見てみたい! 間違いなく劣情催すだろうし!』
「……ぇ……? マサヒコが……私に……? 家族じゃ……ないの?』
それ以上だよ。
家族だから好きなんじゃない。
幼馴染だから、最初に好きになったからじゃない。
硝子だから好きなんだ。
硝子が……好きなんだ。
卑怯で負けず嫌いだけど、俺たち幼馴染の中で一番対人関係のバランス感覚みたいなもんが良くて。
俺が話したくない事は無理に聞かないし。
なぁ硝子。
お前が話したくない事、俺は無理には聞かないけど、そんなに頼りにならないのかよ。
俺は普通に頼るのになんでお前は頼ってくれないんだよ。
俺はお前が……
「起こせ起こせーー♪ マサヒコが起こしてくれないと遅刻しちゃうぞー! 早く起こしてー! 起こすと喜ぶぞー! 嬉しいぞー!」
けたたましい。
でも、最近この声を聞くと怖いんだ。
俺が起こしに行った時に硝子がいなかったら?
家にも、学校にも、イバラやリンカの所にもいなかったら?
硝子が……どこにもいなかったら?
不安感に駆られて眠っていられなくなるんだよ。
お前がいないと、俺は……
「硝子!」
飛び起きるとそこは学校の屋上だった。
「ん? マサヒコ起きた? やっぱりマサヒコを起こすのはこれがいちばんだねー」
スマホで録音音声を俺の前で鳴らし続ける硝子。
硝子だ。
目の前に硝子がいた事でホッとする。
「『硝子どこだ? 硝子どこだ?』ってずっとうなされてたよ……さすがにかわいそうになったから目覚まし録音した音声流してみたよ」
少し俯きながら呟く硝子。
なんで普通に硝子が起こしてくれないんだよ。
いなくなる準備みたいな真似やめろよ。
音声は残るよ、みたいに言われた気がして不安が一層募るんだよ。
だからこそ、その話題に触れられなかった。
「硝子……その姿は?」
「さすがにあの姿でいるのはマサヒコに目の毒だからねー。 みんな着替えたよ」
見回すと幼馴染たちは全員制服姿に戻ってる。
甘いな硝子。
お前たちは制服姿でも充分劣情を催せる存在だ。
「そうか……なんだかボーッとした感じはなくなってる」
賢者タイムってやつか?
いや、違うな。
「副会長。 アンタ俺に催眠仕込みやがったな?」
「そうだねぇ」
悪びれもせずにくすくすと笑う。
「すごいねぇ。 理事長が作った催眠アプリを幼馴染ちゃんに興奮する事で自ら解いちゃうなんてぇ」
「……一応、隠してるんであんまり大きな声で言わないでもらっていいですか?」
「バレバレだよぉ」
この作品の根幹にあるテーマだったはずだが、確かに最近はバレバレだ。
俺の方も隠す気あんのかって感じだもんな。
「チエちゃん……なんで正彦にそんな事したの?」
悲痛な面持ちのイバラが副会長に問う。
「さぁ? 意外と空気の読める角田くんなら多分気づいてると思うよぉ?」
ホントに意地が悪い人だ。
ここで俺が意気揚々と語り出したらイバラも……それこそアンタ自身も傷つくのを理解してるくせに。
俺は思い通りにアンタを傷つけてやらない。
俺に答えを求めるが如く視線をこちらに向けるイバラに、俺は愛しい人の名前を呼ぶ。
「イバラ」
「正彦……」
そんな不安そうな顔をするな。
俺に告白してきた時のお前は、カッコ良くて、俺はお前の顔をまともに見れない程、惚れ直したんだから。
視線を逸らさずに交差させるとイバラが決心した視線を向けると同時だった。
副会長がイバラの発言に手のひらを向けて待ったをかける。
「イバラちゃんは角田くんとキスはしたことあるぅ?」
「……」(こくり)
意地の悪い笑みを浮かべる副会長。
この次に何を言わんとしてるのも、自ずと理解できる。
「ふーん。 じゃあえっちは? まだだよねぇ? 角田くんはめちゃくちゃエロいくせに身持ちがアホみたいに固いもん」
アホとは心外だな。
アンタにはエロくならんがな。
が、催眠アプリ中に記憶が曖昧な部分は確かにある。
おまけに副会長の家で裸同士で寝てたんだ。
普通に考えたらそういう事だよな。
「私はしたよぉ。 角田くん、 思った通り情熱的で乱れてくれたよぉ」
「きっしょ! 事案じゃん! マサ、さっさと自首したらあ!?」
さすがはリンカだ。(?)
俺を警察沙汰に巻き込む事には余念がない。
一応幼馴染だし、催眠アプリ使われてたってわかってるはずなのに……
「だからぁ角田くんは、 私のモノ、 だよね?」
片目を閉じながら俺に同意を求める。
まぁ、アンタの意図は分かった。
ここで慌てふためく俺たちを見たいんだろ?
かき乱したいんだろ?
でも、ホントは、アンタ曰く空気の読める俺には分かってることがある。
だからこそ、宣言する。
「俺は初めて事後った相手と結婚すると決めている。 それがどんな人でもな」
本気だ。
自他共に認められてる執念深さはハンパなモンじゃないからな。
硝子とリンカがドン引きした顔してる。
……キツい。
「ふふっ。 わかったぁ? こんな簡単なモンなんだよぉ。 私とイバラちゃんが溝ができちゃったみたいに、 君たち幼馴染の結束が固いように見えたって崩れる時は一瞬。 ホントくだらないよねぇ」
相変わらず口角を上げてはいるがどこか自嘲気味だ。
この人は俺に負けじとロマンチストなんだ。
どこか達観しているように見えても『それ』をあきらめたくてもあきらめられない。
イバラ。
信じてるぞ。
俺が惚れ直した時のお前のカッコ良さを。
俺が愛して、俺を愛してくれているのを知ってるから。
「……正彦がチエちゃんと、その……しちゃったなら、苦しい。 想像すると胸が張り裂けそう。 でも」
人類の8割以上はNTR性癖があるからな。(?)
イバラの興奮はもっともだ。(?)(?)
「私は……正彦が好き。 正彦がチエちゃんの事を好きになったとしてもあきらめたくない……!」
「イバラちゃん……」
余裕を感じられた挑発的表情が副会長から消えている。
イバラの決心を受けて本気で驚いているようだ。
「私と角田くんはえっちしちゃったんだよ? 角田くんを許せるの?」
「辛いわ。 でも……それ以上に正彦が好き。 正彦を待つだけの受け身でなんかいたくない」
許すも何も催眠アプリ……と、使われた俺は抵抗したい気持ちをグッとこらえる。
俺には確信めいたものもあるし。
「チエちゃんとも仲直りしたい……今ならわかるわ。 チエちゃんが私を許せなくなる気持ちが……」
そう言って視線を逸らさずに副会長の手を握るイバラ。
握られた副会長の方が目を泳がせてる。
「そうだよ……私なんかいなくても幼馴染たちとばっかり仲良くしてさ……イバラちゃんはさ……ずるいんだよ!」
「うん」
「綺麗なのに可愛くて、守ってあげなきゃってほっとけないみたいに思わせてさ、 ずるい、 ずるいよ!」
「うん」
「……少しくらい私に振り向いてほしくてさ……意地悪したりしたらさぁ追いかけてくれると思うじゃん? なんでこんな風になっちゃったかなぁ?」
「ごめんね……チエちゃんに嫌われたかと思ったらどうしていいかわからなかったの」
「嫌うわけない!」
副会長がイバラを抱きしめる。
勢い余ってイバラは態勢を崩してしまって尻もちをついてしまっている。
それでも副会長は抱きしめ続けた。
「ホントにずるい……だって今も大好きだよぉ」
「うん……私も……」
イバラへの敵愾心をむき出しにするアンタを牽制したくて、『一方的な確執』なんて言って悪かったな。
そのセリフに一番傷ついた顔してたもんな。
イバラへの気持ちを吐露し続ける副会長。
溝ができてしまった二人が、数年ぶりに気持ちを確かめ合ってるんだ。
中々に副会長の鬱憤は止まらなかったが、イバラはそれを優しく受け止め、時にたしなめていた。
幼馴染同士が喧嘩して仲直りする、この世で最も美しい光景さ。
しかし、副会長もイバラとの溝を埋められて満足そうだが一つだけ訂正しておいて欲しい事がある。
「副会長、 そろそろ幼馴染たちの視線が痛いんだ。 訂正しといてくれないか?」
先程から硝子とリンカの視線が痛い。
もうなんか串刺しにされて焼き鳥にされてる気分だ。
空気読んで何も言わないようにしてただけなのに。(やっぱり正彦は溜め込む方、やめなー)
「あぁそれぇ? 角田くんが私の家で裸で乱れちゃったってことぉ?」
「うわぁ……」
「マサ……きっしょ」
痛い、痛い。
あれ?
幼馴染たちにこんなに白い顔で見られてたら、泣けてきちゃった。
「ぐすっ……ずずっ」
「あはは。 ホントに幼馴染ちゃんたちが弱点なんだねぇ。 ごめんごめん。 角田くん私の部屋には来たけど、裸になったらすごい勢いで壁に頭を打ちつけて気絶してたよぉ。 あんな乱れ方する人初めて見たよぉ」
「え……?」
「つまり……?」
「そう見えただけで実際には、してないって事ぉ」
くすくすといつもの小悪魔な笑みを浮かべる副会長。
「やっぱりな」
まぁ、何度も言うが俺には確信がある。
どうにも俺は催眠に弱すぎるきらいがある、が。
『初めての相手とする時は新婚旅行中、ちなみにドバイとかのめっちゃ夜景がロマンチックなホテル』
と、聖母マリアですら裸足で逃げ出す価値観を持つ俺が記憶が曖昧とはいえ催さない女性と致すか?
答えはノーだ。
俺のエクスカリバーは健在だ。
「ま、 そういうわけだ。 R15指定は健在ってわけだ。 よろしくな」
片手を上げて幼馴染たちにエクスカリバーの存在を仄めかしたみる。
「あ、あはは、マサヒコ信じてたよー。 私たち幼馴染の結束はこんな事じゃ崩れないしねー(じとじとー)」
「きゃ、キャハハ! そうそう、この後、同意無しで迫られたって警察にマサを突き出そうなんて考えてもいなかったわー(じとー)」
なんとも言えないジト目を俺に寄せる硝子とリンカ。
同意していない挙句、警察に突き出されたら不憫すぎるだろ。
「コホン、 それではマサヒコ。 勝負の結果だけど」
気を取り直してとばかりに咳払いをしてくる硝子。
さすがだよ。
俺を全く信じてなかったのにその切り返し。
手をマイクのようにして向けてくる硝子。
「さぁ、それでは審査員のマサヒコさん。 誰に一番劣情を催しましたか?」
悪びれもせずにやはり、当初とはルールの変わった審査を要求してくる硝子。
まったく、相変わらず憎めん奴だ。
それに硝子に聞かれるまでもない。
俺の心はもう決まっている。
「全員だ!……副会長含めて全員催した!」
副会長含めての采配はかなり大甘なジャッジだが仕方ない。
イバラの事を大好きな友達がいたんだ。
恥をかかせるわけにはいかない(?)
副会長には副会長の良いところがあって、幼馴染たちには幼馴染たちの良いところがあるんだからーー
ーー劣情バトル戦績ーー
vs早生硝子 2勝2敗
vs高嶺茨 0勝6敗
vs戸成燐火 1勝4敗
幼馴染たちへの敗因 あれは、ムリ。
vs入玲知恵 0勝1敗
敗因 大岡越前の大甘ジャッジ名采配
新作書いてて1日置きになっちゃってます。
キチンとこちらも更新いきますのでお付き合い頂ければと思います。
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