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この思い届け!

 連休は雨になれ!


 嫌な私が顔を出し、呪いの言葉を吐く。


 必死でそれを押さえ込もうとするけど、無理。


 好きだったあの人は私の親友だった子と付き合っている。


 そのせいで私達は次第に疎遠になってしまった。


 ストーカーのつもりはないけど、あの人が元親友と街を歩くのをたびたび見かけた。


 えくぼのできるスマイルが爽やかな彼。


 そんな彼と釣り合いのとれた彼女。


 偶然、二人の会話を聞いてしまった。


「今度の連休、楽しみね」


 嬉しそうな彼女とそれを微笑んで見つめる彼。


 その時からずっと、私の心の中のもう一人の私が呪いの言葉を吐くようになった。




「漫才トリオみたいだな、君達」


 いつもボケと突っ込みを繰り返しながら楽しい会話をしていた私と元親友ともう一人の親友。


 そんな私達をいつも楽しそうに彼が見ていてくれた。


 私達は三人同時に彼に恋していた。


 私の家に集まった時、互いの思いを知った。


 もう一人の親友は、


「冗談よ。あの人、タイプじゃないもん」


 早々に舞台から降りてしまった。彼女は勝ち目がないと悟ったのだ。


 あの時、私も降りるべきだった。


 そうすれば、今の私みたいな醜い存在にはならなかったのに。




 私には勇気も取柄もなかったので、彼に自分の気持ちをストレートに伝える事ができない。


「味噌煮込みうどんの美味しい店があるんだけど、皆で行かない?」


 彼が誘ってくれた。元親友はすぐに、


「わあ、行きたい!」


 自分の気持ちをサラッと言葉にできる。でも私は出遅れてしまった。


 結局、そのお店には彼と元親友の二人で行った。


 後悔ばかりが胸を裂かんばかりに膨らんでいく。




 もう諦めようと決めた時、机の上の電波時計が午前零時を表示した。


 BGMのように点けていたラジオから聞こえる女性のパーソナリティの声。


「今日のお題はSFです。楽しいお話をお寄せください」


 私は小さく溜息を吐いた。


「ゼロを割る事はできるけど、ゼロで割る事はできないんだよ」


 彼が以前言っていた事が突然頭に浮かんで来た。


「どうして?」


 私は思わず尋ねていた。思えばそれが彼に話しかけた最初の言葉だった。


「分数で考えるとわかり易いよ。分母がゼロの場合はね……」


 彼は数学が得意だったので丁寧に理由を説明してくれたのだが、私の頭の許容量を超えた話題だったので、只ニコニコして聞いていただけだったのを覚えている。


「はい、なかなか面白いお話でしたね、『ゼロ帝国の陰謀』。数学に詳しい人なのかな? 私には難しかったけど、それでも面白かったですよ」


 また不意にパーソナリティの声が耳に飛び込んで来た。「ゼロ帝国の陰謀」?


「これで終わりじゃないのね。あとがきがあります。おおっと、もしかしてラジオを通じての告白みたいですよ、皆さん。彼の思いがお相手に伝わるように心を込めて読みますね」


 私の心臓は壊れそうなくらい早く動き始めた。


 彼が元親友に告白する? そんな事、聞きたくない。


 ラジオの電源を切ろうと思ってスイッチに手をかけた。


「僕のつまらない数学の話に付き合ってくれた君。あの時は本当に嬉しかったよ。だから、今度は君と二人で味噌煮込みうどんを食べに行きたい。好きです。付き合ってください」


 眩暈がした。幻聴が聞こえたと思った。


「わあお。聞いてくれているかな、このお相手の方? 彼は真剣だと思いますよ。ですから、いたずらや冗談だとは思わずに彼の思いに応えてあげてください。お願いしますね」


 その後のパーソナリティの言葉は自分の泣き声で聞こえなくなった。

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