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こちらお客様相談室です

 私はある通販会社のお客様担当。


 日々、理不尽な理由で「クレーム」を言ってくる「モンスター」達の相手をするのが主な仕事だ。


 今日も憂鬱な1日が始まる。


「お宅で買った掃除機なんだけど、全然吸い込みが悪くてどうにも使いようがないわ」


「申し訳ございません。不良品はお取替えいたしますので」


 私は見えない相手に深々と何度も頭を下げて応じた。


「居間の鉢植えを移動しようとしたら、落として割っちゃったのよ。その土も植木鉢のかけらも全然吸い込まないってどういう事よ? 返品させて頂戴」


 もう言いがかりだ。酷過ぎる。


 でもこの程度は可愛い方だ。


「お宅で買った懐中電灯、電池が入っていないじゃないの? どうしてよ?」


「電池は別売りと書いてありますので、ご容赦下さい」


「そんなこと、どこにも書いてないわよ! 書いてあっても私が見ていないって言ってるんだから、電池送りなさいよ!」


「それは致しかねます。返品はお受けいたしますので、それでご容赦下さい」


「もう二度とあんたのとこから買わないからね!」


 そのお客様は、そう言いながら月に何度もご注文され、その度に同様のクレームをつけて来るのだ。


 さらに最悪なのはこんなケース。


「お宅で買った洗剤、子供が飲んじゃって救急車呼んだわ。ご近所にとても恥ずかしい思いをしたから、代わりに謝って頂戴!」


 もう子供の心配より世間体なのがモンスターだ。


 わが社に何も非がない事までイチャモンをつけて来る。




 そんないつもの電話応対をしていた時、私の隣の女の子が泣き出してしまった。


 声こそ出していないが、目が真っ赤で、涙が溢れている。


「どうしたの?」


 私は小声で尋ねた。その子はメモ帳に、


「大丈夫です」


と記したが、全く大丈夫そうではない。


「私が代わるわ」


 女の子は相手にその事を告げ、保留ボタンを押すと、嗚咽を上げて机に伏せてしまった。


「お電話代わりました、責任者の内藤です」


「おお、女か? 男はおらんのか、お前んとこは?」


「おりますが、こちらの責任者は私ですので、私が承ります」


 相手は中年の男。もしかして卑猥な事を言ったのか?


 最初に応対した子も、決して気が弱い子ではない。


 原因は何か?


 私は気持ちを落ち着かせながら、ゆっくりと言った。


「係りの者が何か失礼な事を申し上げたのでしょうか?」


「そうじゃねえよ。俺は何も失礼な事はされてねえよ」


「そうですか。お客様、大変申し訳ありませんが、もう一度お話をお聞かせ願えませんか?」


「かまわねえよ」


 男は話を始めた。




 そして10分程経った頃。


「課長、大丈夫ですか?」


 私は1班の班長に声をかけられ、ハッと我に返った。


 知らない間に泣いていた。机の上にある小さな手鏡に真っ赤な目をした私の顔が写っていた。


「だから言ったろ? 並みの神経じゃ、俺の話は堪えられないって」


 相手の男は哀れむような声で言った。


 私は男の生い立ちを聴かされていたのだ。


 そのあまりの壮絶さに、知らないうちに泣いていた。


 クレームではなかったが、これも迷惑電話なのだろうか?


「もうかけないよ。もっと我慢強い奴がいるところに電話するさ」


 男はそう言って電話を切った。


 私はしばらく受話器を持ったまま呆然としていた。

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