表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/105

梅雨の時期の憂鬱

 ジトジト降る雨。


 私は雨降りが続くと心配になる。


 家の裏は道路を隔てて切り立った崖。


 十年前に落石があってから、補強工事がなされた。


 一見心配なさそうな強度に見えるが、不安だ。


 何にしてもあと5年は崩れないで欲しい。五年崩れなければもう大丈夫。


 私はこの家を売り、引っ越すつもりだ。だが、まだ資金が足りない。


 もうしばらくはここにいないといけない。



 そんな私の不安を他所に雨が三日も降り続いている。憂鬱になる。


 傘を差して崖の様子を見に行った。コロコロと小さな石の破片が落ちて来る。


 手抜き工事がたくさん発覚している事件を見聞きするたびに、ここもそうではないかと考えてしまう。


 思わず駆け出し、家に戻る。電話に近づき、受話器を手にした。


 しかし戻してしまう。

 

 連絡していいものかと。騒ぎ過ぎだと言われるのがオチか?


 私は二階に上がり、窓から崖を眺めた。滝のような雨がコンクリートに打ちつけている。


 十年保ったのだ。一日二日で崩れたりしないだろう。


 しかし十年間の蓄積があるとも考えられる。


 明日にも崩れるかも知れないのだ。


 そんな妄想を繰り返す日々が続いた。



 何日か経ったある日。


 私が仕事から帰ると、裏の崖が崩れ、私の家が押し潰されているのが見えた。


 私は驚愕した。よりによって何故留守の時に……。近所の人は、


「家にいない時で良かったね」


と言ってくれた。私は家が潰れたのはどうでも良かった。その後の事が気になった。


 私は県の土木課の人に謝罪を受け、県営の住宅に無料で入居した。


 職員はしきりに謝罪と言い訳を繰り返していたが、私は疲れたからと言って彼を追い返し、

支給された布団に包まって眠った。


 私はその日から別の不安に悩まされた。崩れた崖。押し潰された家。


 これからどうなってしまうのだろう?



 それから一カ月が過ぎた。


 崖の修復工事が始まった。私はますます不安になっていた。


 何故誰も聞いて来ないのだろう? 誰も気づいていないのだろうか?




 日曜の朝、誰かがドアフォンを押した。私は眠い目を擦りながらドアを開いた。


「警察です。がけ崩れで押し潰された貴方の家の床下から、毛布に包まれた白骨死体が見つかりました。お話をお聞かせ願えませんか?」


 私の引越しは無期延期になった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ