表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/105

渇き

 ……!


 あまりにも強烈な喉の渇きに、目が覚めた。


 何だ?


 別にそれほど蒸し暑かった訳ではない。


 汗も特別かいた訳でもない。


 しかし、一刻も早く水分を補給しないと枯れてしまいそうなほど辛かった。


 俺はベッドから飛び出し、キッチンに走った。


「フーッ」


 冷蔵庫にあったスポーツドリンクを飲み、渇きは収まった。


 まだ明け方の四時だ。


 もう一度ベッドに横になり、眠ろうとした。


 えっ?


 そんな。


 もう堪え切れない渇きが襲って来ている。

 

 一体どうしたんだ?


 もう一度冷蔵庫に行き、今度は炭酸飲料を口にした。


「うっ」


 炭酸が喉に染みる。痛いくらいに痺れた。


「何なんだよ」


 俺は少しイライラしながら、再びベッドに近づく。


「……」


 また堪え難い渇き。


 もしかして奇病に罹ったのか?




 眠れなくなった。




 いろいろ考えてみるが、何も思い当たらない。


 糖尿病は喉が渇くと聞いた事がある。


 しかし、それにしても度が過ぎている。


 ベッドに戻るまでに堪えられなくなる渇きって、一体何だ?



 俺は出勤時間の七時になるまで、水分を補給し続けた。


 キッチンは空の缶とペットボトルが散乱し、酷い状態だった。


 俺は会社を休もうと思ったが、現在進行中の企画は、俺が責任者なのでそんな簡単に休む訳にもいかない。


 俺は水筒に麦茶を入れ、出かけた。


 


 駅までわずか十分のアパートに住んでいるのに、改札を通るまでに水筒は空になり、駅の売店でレジ袋一杯にスポーツ飲料を買い込んだ。



 電車の中でも、周囲の乗客が離れてしまう程、俺は飲み続けた。



 あれほど買い込んだスポーツ飲料が、下車駅に到着するまで保たなかった。


 俺は再び駅の売店で大量に買い込んだ。



 会社でも止まらなかった。


 いや、止められなかった。


 渇きは朝より酷くなり、飲まないでいると喉が焼かれたように熱くなる。


 同僚や上司にまで心配された。


 皆口々に医者に行った方がいいと言い始めた。


 しかし俺は作り笑顔で、


「大丈夫です」


と応え、企画会議を始めた。


この企画は我が社の社運を左右するような大きな仕事になる。


 砂漠に緑を。


 大きな貯水池を。


 俺の長年の夢でもある。



 !!!



 その時、俺はとんでもない事に気づいた。


 ああ、何て事だ。


 そして少しホッとした。


 そういう事か。


 原因がわかると、喉の渇きも堪えられるようになった。



 そしてその日は、上司の指示に従い、定時に退社した。


 そしてどこにも立ち寄らず、アパートに戻った。


「そうだよな、怒るよな」


 俺は蛇口をひねってコップに水を入れ、テレビに近づいた。


「ごめんな、俺が悪かったよ」


 テレビの上の枯れかかった観葉植物に水をやりながら、俺は詫びた。


 


 喉の渇きは収まった。




 しかし、ホッとする間もなく、次に俺は強烈な腹の痛みに襲われた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ