携帯電話の怪
皆さんは「携帯電話」をお持ちですか?
もしお持ちなら、このお話を読む前に電源を切る事をお勧めします。
律子は携帯依存症とも言うべき状態で、片時も携帯を手放せないでいた。
その理由。
「いつ、出版社から受賞の連絡があるかわからないから」
あり得ない。
彼女は小説の公募に投稿した事がないのだ。
それなのに、毎日のように出版社からの連絡を待っている。
彼女が携帯を手放せない理由。
実はもう一つある。
それは誰にも言っていない事なのだが、彼からのメールを待っているのだ。
いや、はっきり言ってしまえば、「彼」ではない。
只の同好会仲間。
小説家を目指している仲間同士の集まりで、一目惚れした年下の男。
相手は全く恋愛感情などない。
もし愛情があるとすれば、それは「お母さん」のような存在。
それほど歳は離れていないが、男の方はそういう気持ちだ。
律子はそれに全く気づいていない。
傍目には哀れにさえ見えてしまう。
彼女はその2つの連絡相手のために、寝る時さえも携帯を手放さなかった。
家族も彼女の行動を心配し、心療内科の受診を考えたりした。
しかし、元来医者嫌いの律子は、どんなに家族が説得しても、病院に行ったりしなかった。
また、過酷な減量をさせられると思っているのだ。
今ではリバウンドし、着られる服がほとんどなくなってしまっている。
そんな状態でも、彼女は携帯を放さなかった。
しかし律子の携帯は鳴らなかった。
彼女は携帯ショップに行き、携帯が壊れていると騒いだ。
携帯はどこも異常がなく、どうしても納得しない律子に困り果てた店は警察に通報した。
律子は警官にも食ってかかり、支離滅裂な事を言い続けた。
彼女は公務執行妨害で緊急逮捕され、警察に連行された。
留置所に入れられる時、彼女は携帯を没収された。
律子は泣いて嫌がったが、警官は携帯を取り上げ、律子は留置された。
「私は携帯がないと生きて行けないの! お願いだから返して!」
彼女は叫び続けた。
しかしその願いは聞き入れられなかった。
翌朝、律子は遺体となっていた。
彼女の姿は、携帯で話しているようだったという。