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犯行目的

 私はG県警の刑事。


 県内は犯罪史上稀に見る猟奇殺人事件で騒然としている。


 被害者はごく普通の人達。


 殺され方が尋常ではない。


 十代の男子高校生は鼻にイヤフォンを入れられ、耳にきりを突き刺されて失血死。


 二十代の若い女性は、携帯電話を喉の奥に突っ込まれて気管損傷で死亡。


 三十代の男性は自宅のブロック塀と自分の車に挟まれて圧死。


 四十代の女性は、自分の自転車の下敷きになり内臓破裂で死亡。


 五十代の男性は、耳、鼻、口に火の点いたタバコを入れられ、顔を粘着テープでグルグル巻きにされて窒息死。


 六十代の男性は携帯カラオケのマイクで何度も殴打され、頭骨陥没で死亡。


 七十代の女性は舌を抉り取られ、目を潰されて失血死。


 全ての殺人現場には、「天誅」と墨で書かれた半紙が置かれていた。


 被害者は全員それぞれ全く面識がなく、何一つ共通点がない。


 只一つ同じなのは、全員G県在住という事だけ。




 捜査は難航するかに思われた。


 しかし、事件は犯人の自首という、実に呆気ない終結を迎えた。


 ある意味で言うと、本当の「猟奇事件」はここから始まる。




 犯人(と思われる人物としか現段階では言えない)は、四十代の男性。


 自首した時応対した関係で、取り調べは私が担当した。


 そして私はその男の心の内を知り、震えた。


 以下、男の供述。


「動機ですか? 正義感ですよ、正義感。誰にでもあるでしょ、こいつ許せないって。私はそれが他の人達に比べて強いんですよね」


 男は自首はしたが、自分の犯行は正当なものだと考えていた。異常だ。


「高校生ですか? あのバカ、バスの中でイヤフォンで音楽聞いていて、音が大きくて、凄く耳障りだったんです。で、注意したら逆ギレですよ。バスを降りてから後をつけて、人がいないのを見計らって殺しました。あんな奴、生かしておいてもどうせロクな人間にならないでしょう?」


 そんな事をお前が決めるな。


「若い女ですか? 携帯電話で話すのに夢中で、歩道の真ん中に立ったままなんです。他の人も迷惑そうに通り過ぎてました。あまりにも目に余るので、注意したら、『はあ? キモいオヤジ』とか言いまして、そのまま無視されたので、一度そこから離れ、そいつが歩き出したのをつけて、人気のないところで羽交い絞めにして持っていた携帯電話をそのバカでかい口の中に突き立ててやりました。死んで当然ですよ、あんな迷惑女は」


もう完全に狂っている。


「三十代の男? ああ、あの路駐ヤロウね。あいつ、家に駐車場があるのに、いつも路上駐車してるんです。しかも近くの交番の警官とは顔馴染みみたいで、路上駐車を通報しても取り合ってもらえないんです。で、直接注意しに行ったら、逆ギレですよ。『何か迷惑かけたのかよ』って。私は周囲に人がいなかったので、そいつの車に乗り込み、そのバカ男をそいつの家の塀に挟み込んでやったんです。すっきりしましたよ、いい事をしたので」


 正義感とか言っていたが、どこに正義があるんだ?


「自転車? 歩道を我が物顔で自転車に乗っているババアね。あいつ、自分が邪魔なのに、歩行者が並んで歩いているとすぐに大声で怒鳴るんですよ。『ここはみんなの歩道なのよ』って。何言ってるんですかね。この前、それを私に言ったんです。だから後をつけて自転車ごと蹴倒し、喚くババアの腹の上に自転車を叩きつけてやりましたよ。爽快でしたね」


 確かに苛つく自転車は存在するが、殺すのはやり過ぎだろう。


 この男はそんな調子で犯行を自供し、一切裁判では争わないと言った。


 こいつの目的は何だったのだろう?


 私は無駄と思いつつ、尋ねてみた。


「君の目的は何だ?」


 男はニッと笑った。


「私の目的ですか? それは、世の中には犯罪にはならないがとても有害な人間がたくさんいるのを世間の人達に知ってもらう事です。刑事さんもそう思いませんか?」 


 お前もその有害な人間の一人だろう。


 そう言いたいのをグッと堪え、私は男を哀れんだ。


 そして同時に、人間はあるたがが外れてしまうとたちどころに犯罪者になってしまう弱い存在なのだという事を痛感した。

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