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俺は誰だ?

 俺は走っていた。


 誰か俺を知っている奴はいないのか?


 人がいない砂漠ではない。


 無人の荒野でもない。


 昼尚暗いジャングルでもない。


 ごく普通の、ありふれた街の大通りである。


 たくさんの人が行き交っている。


 車も走っている。


 路面電車も走っている。


 タクシーのクラクションが耳につく。


 トラックの排気ガスが肺を刺激する。


 老若男女、ありとあらゆる世代が歩いている。


 俺は躊躇う事なく、次々に彼等彼女等に声をかけた。


「俺を知っているか?」


「俺を知っているだろう?」


「俺が誰だかわかるか?」


 しかし、誰も知らない。


 言葉が通じない訳ではない。


 俺の言葉と町を歩く人々の言葉は同じだ。


 通訳が必要な訳ではない。


 なのに何故誰も俺の事を知らないのだ?


 俺は気味が悪くなって来た。


 吐き気がする。寒気もする。


 熱が出そうだ。頭が重い。


 あり得ない。この町で俺は生まれ、育った。


 多くの友人がいて、多くの先輩がいて、多くの後輩もいるはず。


 それなのに、今まで何百人もの人々に声をかけて、誰一人として俺の事を知っている者がいない。


 どういう事なんだ?


 何かの罰ゲームか? 


 俺はそんな酷い仕打ちを受けねばならないような事をしたのか?


 わからない。


 どうしてなんだ?


 俺はその時ある事を思いついた。


 そうだ。


 市役所に行けばいい。


 そこなら、俺の事を知っている人がいるはず。


 俺は名案だと思い、市役所に行った。


 しかし結果は同じだった。


 誰も俺を知らない。


 俺の事を調べるにしても、何もわからないので調べようがないと言う。


「何故何もわからないんです?」


 俺は頭に来て大声で怒鳴った。すると市役所の人は、


「そちらをご覧なさい。何故貴方が何者がわからないのか、その理由が示されています」


と俺の右後ろを指差した。


 俺はそちらに顔を向けた。


 そこには、鏡があった。


 俺はその鏡に近づいた。


 そして、全てを理解した。


 そこに俺は写っていたが、顔がなかった。顔の部分は空洞で、向こうが見えていた。


「貴方は自分をどこかに忘れて来たのですよ。だから、誰にも貴方が誰なのか、わかりません」


 俺は自分の顔を触った。確かに顔は存在する。


 しかし、鏡に映らない。他人にも俺の顔は見えないのだ。


 俺は一生自分が誰なのかわからないまま生きる事になったのを知った。

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