タイムマシン
富田林博士は、時空跳躍を研究している若き科学者である。
彼の夢は「タイムマシン製作」であった。
誰もが無理だと言った。
しかし彼には確信があった。
何故ならまだ子供の頃、タイムマシンらしきものに乗って現れた男が残した設計図を今は亡き父親から譲り受けているのだ。
その男の顔も名前も父親は教えてくれなかった。
父親はそのことを尋ねると黙して語らなかった。
彼は諦めず、研究を続けた。
理論と実験のすり合わせをする。
そして遂に彼はタイムマシンを完成させた。
テストをしてみた。
一ヶ月前に戻ってみる。
成功した。
博士は競馬場に行き、大穴を連続して的中させ、巨万の富を得た。
ある地方へ行き、地震を予言し、多くの人を助けた。
彼はそうしたテストを繰り返し、遂に決断した。
父親が会った男が現れた時代に行く事にしたのだ。
今から50年前。
今までのテストでは一番古くて1年前への時間旅行だった。
緊張した。今までにない時間跳躍。
失敗するかも知れない。
そんな不安が、操作する手の動きを鈍らせる。
しかし博士は迷いを振り払い、タイムマシンを起動した。
50年前の日本。
男は自分が誰なのかもわからず、彷徨い歩いていた。
そんな男を見た小学生の富田林君は、男に声をかけた。
「おじさん、どうしたの?」
「私は、自分が誰かわからないんだ。誰かを探しに来たような気がするのだが、誰を探しに来たのか思い出せない」
男は白衣を着ていて、医者か科学者に見えた。
「これを渡したかったんだと思う。ここに書いてある住所が、その人のいる家なのかも知れない」
富田林君は、男から大きな茶封筒を受け取った。
中身は、機械の設計図だった。文字が書いてあった。
「たいむましん?」
富田林君は不思議そうな顔で男を見上げた。
「タイムマシン? その言葉、何か関係があるような・・・。思い出せない・・・」
男はまもなく、通報を受けた警察官に連れられ、パトカーに乗せられて行ってしまった。
富田林君は近くの交番に保護され、両親が迎えに来るまで設計図を見ていた。
「これ、何だろう?」
富田林君はそれを自分の秘密の宝物にするつもりで、ズボンのポケットにねじ込んだ。
「あのね」
編集者の冷たい視線が突き刺さる。私は下を向いたままで、
「はい」
「結局、記憶喪失の男って、富田林博士でしょ?」
「はい」
「じゃあさ、その設計図は誰が書いたの? タイムパラドックスじゃん」
「はあ」
そうは言われても、設計図を受け取ったのは、私なのだ。
そしてそれを科学者の息子に渡した。
で、息子はタイムトラベルをして記憶を失い、子供の頃の私の前に現れ、設計図を渡した。
現実にそうなのだ。
だから、
「タイムパラドックスじゃん」
とか批判されても、実話を元に再構成した小説なのだし、グダグダ言われたくないなあ。