私、こういう者(死神)です
ここはどこ? 私は誰?
は。
あれ?
私、確か、通学途中、トラックに跳ねられて、グシャって地面に叩きつけられたはずなんだけど?
おかしいな。
顔を思い切りアスファルトにぶつけたような気がしたのに、血も出てないし、怪我もしてない。
なあんだ、夢だったんだ。
良かった。
さてと、学校に行かなくちゃ。うん? 私ってば、制服のまま寝てたの?
あれ? 何だ、ここ? 一面お花畑。
どこよ?
「ああ、気がつかれましたか」
男の人の声がした。
「イヤーッ、痴漢ンンン!」
私は変態に部屋に忍び込まれたと思い、叫んだ。
「酷いなあ。私は痴漢ではありません。こういう者です」
声のした方をふと見ると、スーツ姿の男性が名刺を差し出して立っていた。
「ああ、どうも」
私は立ち上がって、それを受け取る。
「え? 死神さん?」
その人の姿と職業のあまりのギャップに唖然とする。
「本当に?」
私は名刺とその人を何度も見比べてしまった。
「初対面の人には、よく言われます、ハイ」
死神を名乗るその人は、頭を掻きながら言った。
え? って事は、もしかして?
「はい。貴女はめでたくこちらの住人になりました」
えええええええええッッッッ!?
「じゃ、じゃ、じゃあ、ひょっとしてもしかして、まさかとは思うけど、私、死んじゃったの!?」
私は死神の襟首をねじ上げて怒鳴った。死神は苦笑いをして、
「貴女の生きていた世界では、そういう言い方になりますね」
「……」
私は唖然とした。すると死神は、
「笹霧美智流さん、高校二年生。享年十七歳ですね」
と楽しそうに言う。
「あんたねえええええ!」
私は更にそいつの襟首をねじ上げた。そいつは苦しそうに、
「や、やめて下さい、苦しくて死にそうです……」
と言った。
「死神が死ぬのか、この!」
私は泣きながらそいつの襟を放した。
「はい、死にますよ。できればそうして欲しかったのですが」
「はあ? 死神が死にたいの? ふざけないでよ」
とことん人をおちょくっている。バカにしないで欲しい。
「死神は誰かに殺されると、その人の代わりに生き返って、その人の人生を引き継げるんです」
「……」
全身に鳥肌が立つ。という事はよ、この冴えないおっさんが、私の身体を借りて、女子高生として生きるって事?
「冗談じゃないわ!」
「はい、冗談ではありません」
そいつはふざけた様子もなく、ニコニコして言った。
「じゃあさ、あんたが私を殺してくれれば、私が生き返れるのよね」
「それはできません。生き返る事ができるのは、死神の特権なのです」
「そんなあ」
私は脱力した。
「ですから、あなた方には、死神候補生として研修を受けていただきたいのです」
私は急に希望を見出した。
「じゃあさ、研修受けて、死神になれて、誰かに殺してもらえれば、生き返れるのね?」
「はい、そういう事です」
死神は相変わらずニコニコしたままで答えた。
「よぉし、頑張るぞ!」
私は自分が死んでしまったのを忘れて、死神研修に燃えていた。
そして、しばらくして知ったのだ。
それは方便なのだと。
私も死神になり、死んだばかりの女性に同じ事を言った。
「死神になれば、殺されると生き返れるのですよ」
そんな風に騙さないと、最近の死んだ人達は、素直に自分の死を認めないのだそうだ。
あの世まで、嫌な「世の中」になってしまったのだった。