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メリークリスマス

 私は恵比寿有希。ごく普通のOL。


 今日は去年のクリスマスイヴに出会って、バレンタインデーから付き合い始めた彼とのお食事。


 二十ウン年の人生で、初めて恋人と過ごすイヴなのだ。


 彼はホテルのレストランに予約を入れてくれて、私を優しくエスコートし、ディナーが始まった。


「はい、メリークリスマス、有希」


 彼はさり気なくプレゼントを差し出した。


 私が前から欲しかったブランドのショルダーバッグだ。


「ありがとう。嬉しい」


「喜んでもらえて、僕も嬉しいよ」


 彼は何故か照れ臭そうに言った。


「あ」


 彼の照れている理由がわかった。


 バッグの中にホテルのカードキーが入っている。


 まさか? これは……。


 もちろん、もうそれなりにお付き合いをして来ているから、今日が初めてという訳ではないけど。


 でも、こんな高級ホテルでなんて、ちょっとドキドキだわ。


「いいかな?」


 彼が尋ねる。私は俯いて、


「うん」


と承諾。当たり前でしょ。もう、何を今更。照れ屋さんなんだから。


 そんなシャイな彼が堪らなく好き。


 つい、笑顔が溢れてしまう。


 彼を見る。彼も私を見て微笑んでいる。


「ごめん、ちょっとトイレ」


 彼は苦笑いをしながら、席を立った。


 緊張しているのかな? そうよね。こんな高級ホテルを予約して、いつも通りでいられないわよね。


 私はあまりにも幸せで、おかしくなりそうだった。


「……」


 彼が戻って来ない。トイレにしては長い。


 何かあったのかしら?


 私は心配になって、彼の携帯にTELした。


 えっ? 現在使われておりません?


 嘘? 今朝は通じたのに。どういう事?


 私は不安に駆られて席を立った。


 すると、向こうからホテルの支配人がやって来た。


「恵比寿有希様ですか?」


「はい、そうですが」


 支配人は厳しい表情をしている。何だろう?


「お連れ様の渋谷瑛太様が、宿泊料金をお支払いにならないままで連絡がとれなくなっています」


「はあ?」


 私は全身から嫌な汗が出て来るのを感じた。


「お部屋に、請求は貴方様にするようにとメモが残されておりました」


「何ですって!?」


 私は驚愕した。あいつ、何て事を!


 このバッグは、そのお詫びって事? だからカードキーを入れてあったの?


 私は支払いを拒否しようと思ったが、ここで揉めるのも嫌なので、バッグに免じて許してあげる事にし、立て替えた。


 そう、あくまで立て替えたのだ。


 痛い出費だったが。


 今年のイヴは散々だ。


 来年こそ、良い年にしよう。そう心に誓った。




 そして、年が明けて二〇一〇年。


 良い年にはならなかった。


 あのバカは、バッグの支払いも、私のカードでこっそりしていたのだった。




 だからクリスマスなんて大っ嫌いなんだ!

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