バスを待つ間に
私はふと気づくと、見知らぬ町のバス停に佇んでいた。
私の前には、たくさんの人が皆俯き加減にバスを待っているのが見えた。
誰も彼も笑顔がない。何故だろう?
私も笑顔ではないのがわかる。何か物悲しいのだ。
バス停の時刻表を見ても、いつバスが来るのかわからない。
私は腕時計もしていない。携帯もどこかに置き忘れたらしく、バッグの中にない。
一体今は何時なのだろう?
辺りには深い霧が立ちこめていて、全く時刻がわからない状態だ。
明るいような、暗いような……。
振り向くと、私の後ろにもたくさんの人達が並んでいる。
やっばり、皆一様に笑顔がなく、俯いている。
何でこんなに心が重いのだろう?
理由がわからない。何が原因なのか、思い当たらない。
あ。
そんな事を思い巡らせていると、バスが走って来た。
霧の中をかい潜るように、車体が近づいて来る。
そしてバスは停車し、ドアが開く。
先頭に立っていたおじいさんが乗り込む。次に小さい女の子。
中年のサラリーマン、おばあさんと続いた。
そして、私が乗り込もうとした時、
「待ちなさい。貴女はまだ乗ってはいけない。私が乗ります」
と止められ、その人が乗り、バスは出てしまった。
「ああ」
私は、振り返ったその人の顔を見た。
伯母さん。私の父の姉。どうして突然現れたの?
不思議に思っていると、どこからか、私を呼ぶ声が聞こえた。
「ああ、意識が戻りました」
? 何? どういう事?
目を開けると、父と母、そして妹と弟が泣きながらこちらを見ているのに気づいた。
「良かった。助かって」
母はそう言うと泣き崩れた。父が母を支えている。
そうか。私は、旅行に出かけて、事故に遭ったんだ。
バスが崖から転落して……。
たくさんの人が、苦しんでいるのが見えて……。
気を失ったのだ。
「伯母さんは?」
私は不意にそう言った。父と母がギョッとする。
伯母は私と一緒にそのバスに乗っていたのだ。
「……」
誰も答えてくれないのが、まさに答えだった。
そして、あの夢の意味を理解した。
私はあの世へのバスに乗れなかったのだ。
乗りそうになっているのを、伯母に助けられたのだ。
そして、伯母は私の代わりにバスに乗ってくれたのだ。
涙が溢れた。止まらなかった。
喜べない。助かった事を喜べない。
私は泣き続けた。声が出なくなっても、涙が枯れても、泣き続けた。




