大食い食堂紀行
俺は自他共に認める大食いだ。
たくさんの選手権に出場し、優勝して来た。
海外でも栄冠に輝いた事がある。
但し、俺はプロのフードファイターではない。
あくまで大食いは趣味なのだ。
そんな俺が、もう一つの趣味であるインターネットで、今まで行ったことがない大盛りの食堂を見つけた。
場所は群馬県。東北地方だったかな? どこだったか記憶が定かではない。
俺は地理が苦手で、関東地方の「一都六県」も知らない。
世間ではそれを「おバカ」と呼ぶらしいが、知らなくても生活に支障がない事を覚える方が「おバカ」だと思う。
俺は実利主義者なのだ。
そんなわけで、俺は早速その食堂「大具井食堂」に出かけた。
東北地方なら東北新幹線で行けば着けるだろうと思い、東京駅から東北新幹線に乗った。
住所は群馬県大利根郡の士似神村外忽だ。凄い名前だ。
しばらくすると車内販売のオバちゃんが来たので、コーヒーを買って、
「群馬県の大利根郡に行くにはどこで降りればいいのかな?」
と尋ねた。するとオバちゃんは大袈裟に驚き、
「お客様、群馬県大利根郡は新潟に行く上越新幹線に乗らないと行けませんよ。大宮で降りないと」
「え?」
まずい。もの凄いバカだと思われた。そうか、群馬は新潟なのか。
「ハハハ、そうだよね。群馬は新潟だよね」
俺はうっかり乗り間違えたフリをして笑って誤魔化したが、立ち去るオバちゃんの目は、可哀相な人を見る目だった。
大宮駅で上越新幹線に乗り換え、俺は新潟に向かった。
まだ時間があるようだ。
一眠りするか。
俺はシートを少し傾けて眠った。
うん?
随分寝た気がする。
窓の外を見た。新潟駅に着いたようだ。
俺は改札を出て、タクシー乗り場に向かった。
「どちらまで?」
運ちゃんが尋ねて来た。俺は落ち着き払って、
「群馬県の大利根郡士似神村まで」
「は? 本当ですか?」
運ちゃんは疑うような目で俺を見た。
「本当だよ。急いでくれ」
「でも遠いですよ」
「かまわないよ。どのくらいかかりそうなんだ?」
俺は腕時計に目をやって尋ねた。すると運ちゃんは、
「高速で飛ばして四時間てとこですかね」
「は? 四時間? そんなに遠いの?」
俺はビックリした。そんな辺鄙なところなのか?
「そんなにかかるのなら、新幹線で行った方が早いかな」
「だと思いますよ。私はかまいませんが、お客さんもその方が安くすむでしょうしね」
俺は運ちゃんの優しさに感動した。
「で、大利根郡はどの駅で降りれば近い?」
「群馬の大利根高原平駅で降りればすぐですよ、確か」
「群馬? 群馬は新潟だよね?」
「違いますよ、群馬は群馬です。お客さん、どこからお出でですか?」
運ちゃんの目が車内販売のオバちゃんの目と同じになった。
まずい。また何かやらかしたか?
「東京。群馬なんて行った事がないからさ、どこにあるのか知らなくて」
運ちゃんの視線が痛い。可哀相な子を見る目だ。
「お客さん、今度はお友達と出かけた方がいいですよ」
俺は礼を言ってタクシーを降りた。
俺は結局もの凄い遠回りをしていた。
地理を知らない事は生活に大きな影響がある。
それに気づいた。
ようやく「大具井食堂」に辿り着いた時、すでに店は閉店していた。
俺は仕方なく近くの旅館に泊まり、次の日の朝再び出向いた。
ところが店は開いていなかった。
よく見ると張り紙がある。
「弊店はお客様に緊急入院された方がいたため、営業を停止されました」
俺は目まいがした。