峠の首なしライダー
バイクが怖い人は読まない方がいいです。
幽霊が出る。
そういう評判のある峠は多い。
俺は全くそういう存在を信じていない。
後輩は昔から霊の存在を信じており、所謂「心霊スポット」によく出向いていた。
俺もたびたび誘われたのだが、全て断わっていた。
ある日、俺が心霊スポットに行かないのは、怖いからだという噂が立っている事を知った。
その噂は聞き捨てならない。
俺はその不名誉な噂を払拭するために、後輩と二人である峠に行く事を決意した。
その峠があるのは、G県T市。元はH町だったところ。
合併でT市に編入されたのだ。
その峠は昔から有名らしく、多くの目撃談がそれ系の雑誌に掲載されている。
後輩はその体験談を読み、その峠が一番凄いという結論を出し、俺を誘って来た。
「怖がり」という汚名を雪ぐためには、一番凄い心霊スポットに行くのが一番だ。
これで俺が怖くて行かないなどとは二度と言わせない。
出るのは「首なしライダー」らしい。
そのポイントで、携帯で自分を撮影し、制覇した事をメールで送る。
そうすれば、俺の不名誉な噂は消えてなくなる。
そう考えた。
数日後、俺の運転でG県T市に出かけた。
高速を飛ばせば、都心から二時間だ。
それにしても結構山奥だ。ま、峠だから当然なのだが。
俺達が出向いた峠は、H山へ通じている。
全国的に有名な霊山だと言う。俺は全然知らない山だった。
首なしライダーの霊は、地元の走り屋の霊らしい。
H山は、走り屋のメッカでもあり、峠を攻める連中がたくさんいる。
俺には、霊よりもそいつ等の方が鬱陶しい気がした。
やがて俺達は現場に到着した。
「確か、最後のカーブのところです。今でも花束が置かれているらしいですよ」
すでに後輩はビビりまくっていた。
「そうか。じゃ、その花束の前で撮るか」
「ええっ!? マジっすか? やばいっすよ、それ。それはやめましょうよ」
後輩は泣き出しそうな顔で言った。俺はそんな反応に苦笑して、
「なら、お前は車の中で待ってろ。俺一人で写真撮るから」
「は、はい」
後輩は青白い顔で答えた。
俺は車を降り、カーブの端に手向けられた花束の前まで歩いた。
何も起こらない。
やっぱり霊なんていないのさ。
そうだ。どうせなら、写真じゃなくて動画にしよう。その方がいい。
俺は花束の前に立ち、携帯で撮影をした。
「どうだ。何も起こりゃしない。霊なんていないのさ。ざまあ見ろ」
俺は高笑いをしてから、撮影をやめ、車に戻った。
「何て事言ったんですか、先輩。もう俺、知りませんよ」
後輩は既に泣き出していた。俺の発言にすっかりビビったようだ。
「バーカ、何も起こるかよ。気の小さい奴だな」
俺はどう撮れているのか確認するため、動画を再生した。
おお。よく撮れてるじゃないか。
俺はニンマリして見入った。
むっ?
何だ? 後ろから何か来るぞ。
おかしい。さっきは俺以外誰もいなかったはずだ。
オートバイだ。もの凄いスピードで走って来る。
どういう事だ?
撮影した時、オートバイなんて走っていなかった。
まさか……?
次の瞬間、俺はオートバイのライダーの首がないのを知った。
そして、そのライダーが大きな鎌を振り上げているのも。
ヒュン!
鎌が空気を斬り裂く音がした。
次に、俺の首が斬り飛ばされて転がるのが映った。
「嘘だ!」
それが俺の最後に発した言葉だった。
俺の首は斬り飛ばされ、運転席の足下に転がり落ちた。
そして最後に目にしたのは、首のない俺の胴体だった。