探し物は何ですか?
私はごく普通の主婦。毎日夫と子供達の世話に追われ、自分の事に気を使うゆとりがない。
ある日の事。
私は自転車で近所のスーパーに買い物に出かけた。
いつも道をいつものように進んで行く。
スーパーまであと百メートルくらいまで来た時、私はおばあさんが身を屈めて側溝を覗き込んでいるのに気づいた。
「どうしましたか?」
私は自転車を停めておばあさんに声をかけた。
「はい、ここに落とし物をしてしまいまして。見つからないのですよ」
おばあさんは側溝を覗き込んだままで答えた。今にも落っこちてしまいそうなくらいの態勢だ。
「何を落としたんですか?」
「大事なものなんです。あれがないと困るんですよ」
「そうですか。私も一緒に探しますよ」
お節介が服を着て歩いているような性格と夫にいわれる私は、自転車を降りておばあさんに近づいた。
「どの辺に落としたんですか?」
「多分この辺なんですけど。見えないのでよくわからないんです」
「そうなんですか」
私も側溝のそばに膝を着き、中を覗き込んだ。
おばあさんは側溝の水の中に右手を突っ込み、バシャバシャとかき回すようにしている。
そんな方法で見つかるのだろうか?
私は不思議に思いながらも、目を凝らして水面を見た。
それにしても何を落としたんだろう?
「探し物は何ですか?」
私は見当をつけるためにおばあさんに尋ねた。
「すみませんねえ、見ず知らずの方にそこまでしてもらって」
私は側溝に転げ落ちそうになるくらい驚いた。
「目玉を両方落としてしまったんですよ。見えないから見つけられなくて」
おばあさんはニッコリ笑って、空洞になった目の部分を私に向けた。