木霊小僧
皆さんは「木霊小僧」という妖怪をご存じでしょうか?
あまり知られていないマイナーな妖怪なので、知らない方が多いと思います。
ここで一つ、木霊小僧のお話を致しましょう。
あるところに木こりの男が住んでいました。
男は木こりの仕事が嫌で、いつか辞めたいと思っていました。
しかし、辞めたところで他に出来る事もなく、男は悩んでいました。
「畜生! どうすりゃいいんだよ!?」
彼は森の中で大声で叫びました。
「畜生! どうすりゃいいんだよ!?」
「?」
木霊が聞こえました。
でも妙です。声が幼くなっています。
「誰だ、お前は?」
男が叫びました。すると、
「誰だ、お前は?」
とまた子供っぽい声が応じました。
「妖怪だな、お前?」
男が尋ねると、
「妖怪だな、お前?」
とまだトボケています。男はニヤリとして、
「隣の客はよく柿食う客だ」
と早口言葉を言いました。すると、
「とにゃりのかくはよきかくきうかくだ」
と何の事やらわからない木霊が返って来ました。
「言えてないぞ。それでも木霊か?」
男は腹を抱えて笑いました。
「言えてないぞ。それでも木霊か?」
とまたトボケています。男は少々ムカついて、
「武具馬具武具馬具三武具馬具、合わせて武具馬具六武具馬具」
と非常に難しい早口言葉を言いました。
「ぶぎゅばぎゅぶぎゅばぎゅ……」
遂に木霊は途中で言うのを止めてしまいました。
「情けない木霊だな。出直して来い」
男は大声で笑いました。
そしてその夜の事です。
男が山小屋で寝ていると、夢枕に巨大な身体の物の怪と思しき者が現れました。
「儂はこの山の木霊の元締めだ。昼間、貴様にからかわれた木霊小僧が、舌を噛んで仕事ができなくなってしまった。お前にその責めを負ってもらおう」
「何だと?」
男が抵抗する間もなく、木霊の元締めは男の舌を大きなヤットコで引き抜いてしまいました。
「おーっ!」
男はその痛さで目を覚ましました。
夢かと思ったのですが、彼は本当に舌を引き抜かれていて、それ以来何も話せなくなってしまったのです。
木こりの間では、木霊小僧が現れても決してその返しの拙さをからかったり笑ったりしないというのが決まりでした。
でもこの木こりの男は、普段から他の木こりと仲が悪く、年寄りの木こりの忠告も聞かず、勝手気ままに仕事をしていたため、その事を知らなかったのです。
皆さんも、山や森の中で、木霊小僧に木霊を返されても、絶対にからかったりしないで下さい。
もしそんな事をしたら、どうなるかわかりませんよ。