返したくない
僕は只今恋愛真っ只中。
会社の同僚の女の子と付き合っている。
彼女は可愛くて、気が利き、仕事もできる。
誰もが羨むカップルだ。
もちろん、やっかみや妬みもある。
それを全て2人の愛で乗り越えて来た。
将来を誓い合った。一生一緒にいようと思った。
お互いの親にも会った。皆祝福してくれた。
もうすぐ結婚する事になる。
そう思っていた。
しかし、それは僕の独りよがりだったことがわかった。
ほんのちょっとしたことで、僕らは怒鳴り合ってしまったのだ。
僕のアパートでの出来事だ。
夕食の準備をしていた時、それは始まってしまった。
「返したくない」
僕は強硬に主張した。
しかし彼女も譲らない。
「ダメよ。今すぐ返して。でないと私、もう貴方とは付き合えないわ」
「そんな大袈裟な。それ程の事なのかよ」
「ええ、それ程の事よ、私にとってはね。お金持ちの貴方にはわからないでしょうけど」
何だ、この女は。案外我が儘な女だったんだな。
僕は彼女に幻滅した。だから引き下がらなかった。
「絶対に返さない。誰が返すものか」
「絶対に返さないですって? 何て恥知らずな。貴方がそんな傲慢な人だとは思わなかったわ」
彼女は涙声で僕を罵った。
「もう別れましょう。ここまで考え方が合わないのでは、この先幸せになれるとは思えない」
「ああ、そうだな」
僕は売り言葉に買い言葉で、そう言ってしまった。
彼女はバックを掴むと、部屋から出て行った。
僕はフーッと溜息を吐いて呟いた。
「目玉焼きをひっくり返さないだけで別れ話かよ」