別れたい人
付き合い始めてもう何年になるだろう? というか、いつが付き合い始めた時なのだろう?
何しろ、小学校から高校までは故意か偶然か、ずっと同じだった。
家が近かったので、登下校も一緒。
大学は別になったけど、アパートが近かったのと同じ郷里の共通の友人がいたので、顔を合わせる事が多かった。
好きとか、愛してるとか、そういうのを言った事も言われた事もなかったが、食事に行ったり、映画を観に行ったりはよくしていた。
「それを付き合っているって言うんだよ」
親友に言われ、笑われた。要するに幼馴染がいつの間にか男女の付き合いをしていたという事らしい。
但し、身体を重ねた事はなかった。嫌だったからではない。
何故か、あいつはそういう素振りを見せた事がなかった。
そのせいで、私は徐々に「女」を封印していった。あいつも「男」を見せる事はなかった。
だからといって、あいつが優しくない訳ではない。
どこに行っても、エスコートしてくれるし、割り勘でいいと言っても全部支払をしてくれる。
どこまでも紳士だった。でも、それが気に食わなかった訳でもない。
それなのに何故か私は、あいつと別れたいと思っている。
原因を考えてみた。
一つ思い当たった。
あいつは、映画を観に行くと、ずっとひとりごとを言っているのだ。
内容に対する批評や、登場人物の行動に対する感想などを隣にいる私に話すのではなく、ブツブツと呟いているだけなのだ。
もう一つ思い出した。
以前、あいつのアパートで深夜まで飲み明かした時、帰るのが面倒臭くなった私はそのままあいつの部屋に泊まった。
予想通り、あいつは何もして来なかった。それが悔しかったという事ではない。
翌日、二人で日が高くなってから起き出し、ブランチを食べた時。
いつもと同じく、私の分のサラダを取り分けてくれたり、カリカリのトーストに着けるジャムの蓋が固くて取れないのを取ってくれたりした。
二日酔いだったのが悪かったのか、あいつの全てが嫌になった。
そして、気分が悪いと言い残し、唖然とするあいつを残して帰ったのだ。
後日、あいつは笑顔で接してくれた。
「話があるんだ」
そう言われた時は、愛想を尽かされてとうとう別れ話か、と思った。
何故か息苦しくなり、涙が出そうになったが、作り笑顔であいつに応じ、キャンパスのベンチに並んで座った。
別れたいと思ったのに、別れ話を切り出されると感じた途端にこの動揺は何だろう?
自分が嫌になる。
「え?」
目の前に差し出された眩い輝きを放つ指輪。
「内定が出たんだ。卒業したら、結婚しよう」
あいつの唐突な申し出に涙が止まらなくなった。
ひとまず完結致します。