慎重に……
人間を「慎重派」と「うっかり派」に分けるとすれば、私は間違いなく「うっかり派」だ。
私を知る人間が全員同意するだろう。
そんな私が慎重に事を運ばなければならない「仕事」を仰せつかった。
「うっかり」ではすまない「仕事」だ。しくじれば大変な事になる。
本当に私にできるのか? 何度も自問した。答えは「NO」だった。
誰かに代わってもらえないだろうかと考えたが、今更それもできない。
他者に頼むには時間がないのだ。決断を迫られた。
やるしかない。逃げれば私は二度と「仕事」をさせてもらえない。
重い足取りで現場に向かう。
思いの他早く着いてしまった。しばし考え込む。
ハッと我に返り、作業に取り掛かった。時間がないのだ。悩んでいる暇はない。
ターゲット確認。風もない。誰も私の存在に気づいていない。
ゆっくりとトリガーに人差し指をかけ、祈りながら引いた。
プシュ……。
小さな発射音が聞こえ、次の瞬間ターゲットが倒れるのが見えた。
上出来だった。私はプレッシャーに打ち勝ち、「仕事」を完遂したのだ。
すぐさまその場から駆け出す。追っ手が来るのは時間の問題。
逃走経路の確保はしてある。まず捕まる事はないだろう。
その時携帯がなった。今回のクライアントからだ。早速情報が入ったのだろう。
私はニヤリとして出た。
「大変だ。何者かが我が党の大統領候補を狙撃した。貴方への依頼を変更したい。狙撃者を見つけ出し、始末してくれ」