文武両道、才色兼備、生徒会長の彼女のモチベは可愛いあいつ
初短編小説です。よろしくお願いします。
俺は綿尾快兎。ある高校に今年入学した高校1年生だ。今、1学期の終業式をしている。壇上では生徒会長が最後の挨拶をしている。
稲葉白雪。俺の1つ上の幼馴染でこの高校の生徒会長を務めている。容姿端麗、成績は常にトップ、水泳部の助っ人もこなせるほどの運動神経抜群。高校入学してからすぐにファンクラブができる。アイドルやモデルを頼まれる。クラスの全男子に告白されるなどあらゆる逸話を持っている。
俺が稲葉の幼馴染だと知ったクラスメート達から趣味や好きな物を何度も聞かされ嫉妬される始末だ。
まぁ、それも無理はない。大和撫子と呼ぶに相応しい艶のある長い黒髪に引き締まった身体、170cmという女子高生の中では比較的高い身長にスラリとした足、Eカップはあるだろう大きな胸と正にクールビューティー日本代表である。
それプラス冷静沈着でクールな性格だが人当たりがよく差別などせずみんなに優しく接するから好感度もカンスト状態である。ちなみに俺も稲葉に恋心を抱いている。
そんな説明を心の中でしていると生徒会長の挨拶も終わり終業式も終わった。俺はいつものように帰っているとメールがきた。稲葉からだった。内容は“ウチに来て”だ。
(なんだ?)
何かと思いまず自宅に帰る。玄関に荷物を置いてすぐに稲葉の家に向かう。彼女の家は自宅の隣という幼馴染あるあるで最初にあがるであろう場所にある。稲葉の家につきインターホンを鳴らす。応答がない。
「おーい。入るぞー。」
鍵が開いていたので稲葉の家に入る。すると、奥の部屋で声がする。俺は何の躊躇もなく扉を開けるとそこには━
「はぁ、可愛い~!なんでこんなに可愛いの~!」
ウサギに頬をスリスリしている稲葉がいた。
そう。この女、大のウサギ好きである。家の一室をウサギ専用部屋にして休日は一日中そこでウサギと戯れるぐらいにウサギ好きである。学校とのギャップがひどくて何も言えない。が、もう慣れたものである。
そもそも俺と彼女が幼馴染でいるのも彼女が俺の父親が営むペットショップの常連なのだ。最初はただのウサギ好きと思っていたが年を重ねるごとにその好きが異常になっている。
そもそも稲葉が成績優秀、運動神経抜群と呼ばれるまで頑張れるためのモチベーションは彼らウサギである。そのためもしウサギ無しの生活になったら失踪してしまうのではないかと心配してしまうほど重症だ。
その証拠にウサギに頬をスリスリしている稲葉の顔は人前では見せられないほどヤバい。どれぐらいヤバいかというと麻薬を一度に大量摂取したかと思うぐらいヤバい。最早、ウサギ依存症である。
「おーい。白雪~。」
「あ~、ふわふわ~!・・・はっ!快兎!?いつの間に!?」
「さっきからいたよ。」
稲葉はやっと俺に気付くと恥ずかしそうに顔を赤らめ正座した。その膝の上にはウサギがいる。俺も稲葉の前に座る。
よくウサギ関係で相談を受けているため彼女の自宅に頻繁に通っている。だからだろう。ウサギ達も俺を全然警戒していない。俺に近寄り膝の上に乗る。
俺はウサギを撫でながら稲葉に聞く。すると、稲葉は急に弱々しくなった。
「それで今度はなんだ?」
「その・・・・アンジェが元気ないんだ。」
そう言って稲葉はアンジェという白黒模様のウサギを指さした。ちなみにこの家には雑種ウサギの他にアンゴラウサギやロップイヤー、ネザーランドドワーフ、ミニウサギとたくさんの品種がいる。もちろん、みんな予防注射などの必要な処置は受けている。
「みんなは元気なのにこの1匹だけは元気ないんだ。」
「あれ?確かウサギって1羽じゃなかったか?」
「それは昔哺乳類の狩猟を禁じられたイギリス人がウサギを鳥と同じ数え方をして狩猟したというトンチが由来だ。だから、私はウサギを匹で数える。」
「あ、そっか。それで元気がないだったな。」
俺はアンジェの様態を見る。一応、父親から動物に関する知識を教えてもらいペットトリマーの資格を持つ母親から動物の扱い方を学んでいるため多少の知識と経験がある。
「・・・別に歯に異常はない。温度も21度と快適。それで食欲は?」
「ない。昨日の夜から食べてくれないのだ。」
「ちょっとウンチ見せて。」
俺はアンジェが使っているトイレを確認した。あまり糞をしていないようだ。気になってアンジェのお腹を確認するとお腹が張っていた。それを確認するとアンジェのお腹を優しく撫でた。
「もしかして、胃に問題があるかも。」
「ど、どうすれば!?」
「とにかく、このまま優しく擦って消化を助けながら父親の知り合いがいる動物病院に急ごう。」
「わ、分かった!」
俺はアンジェを抱え稲葉と一緒に動物病院に向かった。幸い動物病院はここから歩いてすぐのところにあるので問題なく到着した。
アンジェを預けてから十数分後、担当していた医師がアンジェを連れて出てきた。
「せ、先生。アンジェは?」
「大丈夫だ。ただの消化不良で命に別状はないよ。もしこれがうっ滞や毛球症だったら危険だった。」
大丈夫。その言葉を聞いた稲葉は涙を浮かべ椅子にへたり込んだ。今の稲葉は学校じゃあ絶対見ることができないぐらいクールから離れていて正直可愛い。
「とにかく、この薬を飲ませて食物繊維の豊富なエサを与えるとすぐに元気になるよ。」
「あ、ありがとうございます!」
「いや、大丈夫だ。さすが生也の息子だね。知識もちゃんとしていて判断も早い。」
「いえ。俺もまだまだです。」
「でも君の判断のおかげでアンジェ君も稲葉君も元気になったよ。」
「先生、ありがとうございます。」
「ありがとうございます!」
俺達は先生にお礼を言って家に帰る。帰路の途中、稲葉はニコニコしながらアンジェを撫でる。アンジェも安心しきった顔で稲葉の腕の中で眠っている。
「良かったな。」
「ああ。快兎、ありがとう。」
笑顔で俺にお礼を言う稲葉。その表情を一人占めできる俺は幸せ者だろう。最もこの表情を毎日独占しているウサギ達に嫉妬をしていることは内緒だがな。