第四話 マギニス先生
誰も、私を見送ってなどくれないと分かっていたので、私は夜のうちに王立寄宿学校を出ることにしました。荷物を迎えの馬車に積んで、逃げるように王立寄宿学校を去ろうとします。
そこへ、私のクラスの担任だったマギニス先生がやってきました。三十代半ばの女性で、夫を事故で亡くした未亡人の女男爵です。
彼女は何かと私につらく当たってきた、厳しい教師というイメージしか私にはありませんでしたが、今日はどこか違います。
「ミス・メリッサ。あなたが王立寄宿学校を去ることを、残念に思いますわ」
「申し訳ありません、マギニス先生。実家の事情もありますが、私の不徳といたすところです」
「あなたを責めるつもりなどありません。ヒューバート・テイトもライラ・アンカーソンも、大して成績に目立った点もなく素行もよくない。一方で、あなたは優秀で、品行方正な生徒でした。どちらかと言えば、彼らよりもあなたにこの王立寄宿学校に残ってほしかったと私は思います」
マギニス先生は驚くようなことを口にしました。今の今まで、王立寄宿学校内ではあの二人を褒め称える声こそあれ、貶す声はなかったにもかかわらず、マギニス先生はそうは見ていなかったようです。もちろん教師はテイト公爵家の威光に逆らえず、生徒はきらびやかな美しい人気者に惹かれてのことですが、それ以外の立場の人間がこの王立寄宿学校内にいたとは私は思いませんでした。
「あなたのお父上には私からも手紙を書いておきました。あなたは王立寄宿学校内で立派に過ごした、決して悪いようにはしないよう取り計らいをお願いしましたから」
「そんな……ありがとうございます。でも、そこまでしていただいても、私は何もお返しすることができません」
「教師が生徒のために働くのは義務です。それに、あなたほど才能ある淑女なら、男性のアクセサリーのような女性とならず、きっと一人で独立して生きていける。顔のことを気にしてはいけません、あなたは胸を張っていなさい」
ぽんと、マギニス先生は私の肩を叩きました。
それがどれだけ心強かったことか。この王立寄宿学校の中で、厳しいマギニス先生だけが私のあざにも元婚約者や妹にも目を向けずに、私自身を見てくれていたのです。
そのマギニス先生の期待に背くわけにはいかない。マギニス先生が私に才能があると認めてくれたのなら、恥ずかしがらずに一人で、自分の力で生きていくことができるはずです。
私は、最後だけは晴れやかな笑顔で、王立寄宿学校を去ることができました。