表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/32

最終話 また明日

 マギニス先生が無事帝都で家と仕事を見つけた、と手紙を送ってきてくれました。私とアレクが帝都に行くと言っていたので、お互いに忙しいだろうから手紙だけでも、と連絡してくれたのです。


 アレクもマギニス先生を気にかけてくれているようなので、生活に困ることはないと思いますが、ワグノリス王国に関わることで何かあればすぐに連絡が取れるようにしているそうです。私が復讐を決断したことは——伝えられませんでした。マギニス先生は察しているかもしれませんが、そんなことは言えません。復讐の心は、二度と表に出したくないのです。


 宮殿で一連の儀式を終え、アレクが屋敷に戻ってきました。アレクの母エステルと出迎えて、私は疲れ切ったアレクを部屋に連れていきます。


「エミー、まだ内定段階だが、エミーに与えられる爵位はバラティエ女子爵になりそうだ。領地はないが、恩賜金で生活に不自由はないし、これからも商売は続けられる。帝都にいてくれれば、俺はいつでも会えるようにしておく」


 立派な正装を脱いで、寝巻きに着替えながら、アレクは興奮気味に語ります。アレクは未来のことを語るときは、文学を語るときと同じように子供のような顔になります。


 それが何とも愛おしくて、私は自分でも気付かないうちに微笑んでいました。


「じゃあ、帝都にもウィズダム書籍商の支店を作らないといけませんね」

「ああ、忙しくなるぞ」

「カルタバージュへ手紙を送っておきましょう。バルクォーツ女侯爵閣下も心配されているでしょうし」

「そうだな、書いておかないと直接乗り込んでくる。どうせ来年には帝都に来る機会が増えるだろうに」


 アレクは口を尖らせます。皇帝の配偶者の姪、という立場のバルクォーツ女侯爵は何かとコネがあり、カルタバージュ市長の権力も合わせると実はアスタニア帝国有数の実力者なのだそうです。帝都アスタナに来て、アレクの母エステルからその話を聞いて初めて知りました。だから、アレクが皇子になる正式な儀式のときには、バルクォーツ女侯爵も必ず参列するでしょう。


 アレクはベッドに腰掛け、私を呼びます。


「エミー、こっちへ」


 何だろう、と私が近づくと、アレクは私の背中に手を回して、二人してベッドへ倒れ込みました。


 ぎゅっと強く腕を回し、私の肩に顔を埋めて、アレクはつぶやきます。


「思えば、お前を抱きしめたことさえなかったな」

「あら、今更ですか」

「恥ずかしかったんだ」

「今日はお疲れでしょうから、あなたが眠るまで一緒にいます。さ、布団に入って」

「むう、子供扱いだな」


 アレクの腕を外して起き上がった私は、アレクを支えて布団をめくります。大人しくベッドに潜り込んだアレクは、私の顔を見上げて、ちょっと驚いていました。


「エミー、あざが消えている」

「お母様に化粧を教わったのです。お母様の化粧の腕は、とてもすごくって……私、感動しました」

「そうか、それならよかった。お前が喜んでくれるなら」


 アレクは眠たそうに、でもにっこりと笑います。


「眠い。もう寝る、おやすみ」

「はい、おやすみなさい」


 また明日。


 そう、私には未来があるのです。


 明日も、そのまた明後日も、十年後も、二十年後も、ずっとその先まで。


 エミー・ウィズダムはアレクシスとともに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] っょぃ。 そしてやはり人生の同志は互いの趣味に理解あるのが一番ですよね。楽しい老後が送れそう。 [気になる点] 由来を聞けば納得できるものの、独自ルールの多い国なので、今後も振り回されトン…
[一言]  とても良いお話でしたが、元家族が、エミーが幸せになっている事を知らないままなのが残念でした。  もっと悔しがって欲しかったので。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ