第三話 謹慎、そして退学
すぐに婚約破棄の一件は父に伝わり、私のもとへ一通の手紙が送られてきました。
王立寄宿学校を退学し、家に戻って次の婚約者が見つかるまで謹慎すること。すでに手筈は整えられていました。一週間後には私は王立寄宿学校を発ち、王都にある屋敷に戻って、そしてどこかの貴族と結婚させられるのです。こんな顔でも受け入れてくれる相手など、それこそアンカーソン伯爵家の莫大な財産目当ての男性しかいません。自領の貿易で富を蓄えている我が家は、テイト公爵家との婚姻でより強固な国内の地盤を確保して、さらに隣国アスタニア帝国に勢力を拡大する足がかりにするつもりなのです。
そうなれば、父が決めるであろう私の結婚相手は、隣国にでもいるのでしょうか。それはそれでかまいません、王立寄宿学校でのあの辱めを知らない方のもとへ嫁げるなら、そのほうがいいに決まっています。
その旨を父に伝えておこうと、私は手紙を書いて、スカーフで顔を隠しながら王立寄宿学校内の郵便配達人のもとへ向かいます。
途中、どうしても校舎の中庭を通らざるをえず、私は影となる壁伝いに気配を殺して急ぎます。毎日の食事は事情を知っている給仕が届けてくれるからいいのですが、それ以外のことはどうしても自分でしなければなりません。
中庭ではしゃぐ声が聞こえます。男女の語らいも耳に届きます。そしてその声が、ヒューバートとライラであることなど、すぐに分かってしまいます。
「それでね、舞踏会だって私はもうとっくにデビューしてるんだから! お姉様とは違うの、お母様にもドレスを譲ってもらってるもの!」
「ライラは可愛いから、踊りたがる男がたくさんいただろう? 妬けてしまうな」
「そんなことないわ。ほら、うちってお姉様のせいで白い目で見られていたから、私もすごく嫌だった! でも安心したわ、ヒューバートが私を選んでくれて!」
「メリッサのせいで苦労していたんだな。あいつのことはもうどうでもいい、これからはライラが俺の婚約者なんだから、忘れてしまえ」
「そうするわ! もう会わずに済むだろうし、せいせいした!」
その会話がヒューバートとライラの本心であることなど、疑う余地はありません。
誰も彼らを責めることもなく、むしろヒューバートは無理矢理私と結婚させられそうになったかわいそうな人間、ライラは私がいたせいで表舞台に出られなかった悲劇のヒロイン。その筋書きは、とうにできているのでしょう。
私はもう、握りしめた手紙のことだけしか、考えられませんでした。