第二十八話 俺がエミーを守らないといけなかったんだ
アレクの母エステルは、少女のようにはしゃいでいました。
「あらやだ、アレクのお嫁さんがこんなにしっかりした子だなんて! 今日はお祝いよ!」
「母上、はしゃがないでください」
そんなことを聞く人ではないようで、アレクの母エステルはどこかへ走っていってしまいました。使用人たちが慌てて追いかけています。多分、お祝いのための準備をしようとしているのでしょう、そっとしておくしかありません。
やっと落ち着いた玄関で、アレクは私を諌めました。
「エミー、冷や冷やするから、ああいうことはやめてくれ。いつ首が飛んでもおかしくない」
「この機会を逃すと色々と邪魔が入ると思ったから、つい。不快にさせて、ごめんなさい」
私は、だんだん冷静になってきて、アレクに申し訳ない気持ちになってきました。私の独断でやってしまったことは、私が責任を取れることではなかった、と思います。もし皇帝の機嫌を大きく損ねれば、本当にアレクの言うとおり首が飛んでいたかもしれないのです。
でも、外国人で市民権がないことはいずれは言わなくてはならなかったでしょうし、それに——あの皇帝に父親らしいことをさせなければならない、とも思いました。アレクが皇帝を父と認めると言ったのですから、皇帝にも父らしくなってもらわなくては困ります。
そんな思惑は、アレクに言う必要はありません。
アレクは、頭を横に振ります。
「違う、俺がエミーを守らないといけなかったんだ。情けない。すまなかった」
私がそんなことを言わなくていいと言う前に、アレクに遮られました。それ以上、私がやらなければならなかったと主張すればアレクを余計に情けなくさせるだけだ、と私は気付き、口を閉ざします。
「でも、エミーがあんなに堂々と、皇帝に進言までできるなんて想像もできなかった。俺はまだまだお前のことを知らないようだ」
ちょっとおどけて、アレクはそう言いました。私も自分があんなに舌が回るなんて思ってもいませんでした。びっくりです。
「それよりも、いいのですか? アレクのお母様にちゃんとご挨拶をしないと」
「ああ、捕まったら言うよ。どうせ走り回って捕まらないから」
アレクはしょうがない、とばかりの反応です。マイペースというか自己主張が強いというか、そういうところはバルクォーツ女侯爵の血筋ですね。
運び込まれてきた荷物を、使用人たちが部屋へ持っていきます。そのあとについて、侍女に案内されて泊まる部屋を見に行こうとして、アレクに呼び止められました。
「エミー」
真剣な顔で、アレクはこう告げます。
「今晩、話がある。おそらく、お前が聞きたくない話だ。聞いてくれるか」
私は足を止めました。アレクの顔は、真剣そのものです。
「ワグノリス王国のこと、テイト公爵家とアンカーソン伯爵家のこと、そして事故のことだ」
それらの話を、いえ、それらの話だから、私は聞かなければなりません。
私は、了承しました。




