第二十六話 今ここで決めろ
問いかけに、アレクは目を鋭くさせて、はっきりとこう言います。
「初めまして皇帝陛下、それでは失礼いたします」
「まあ待て。初対面ではあるが、話をしようではないか」
父と子の初めての対面、この緊迫感からはとてもそうは思えません。アレクは父である皇帝を拒絶する気満々ですし、皇帝からは子であるアレクへ向けるような慈愛の感情など微塵も感じられません。
気まずい雰囲気の中、皇帝が口を開きました。
「実は、ノルドル伯爵が挙動不審だったからな、問い詰めて吐かせたのだ。そうしたらお前が来ると聞いて、こうして待ち伏せていたというわけだ」
くっくと皇帝は笑います。愉快というより、どこか皮肉げです。
「余を謀ろうなどと百年早い。まあ、泳がせておいてもよかったが、宮殿で会うと何かとしがらみがあるだろう。ここでなら腹を割って話せる。どうだ、何かあるか?」
どうだ、と言われてすぐに何かを思いつけるような状況ではありません。
アレクが困っていることは明白です。すでに会話の主導権は握られていて、この場から立ち去ることさえ叶いません。
ならば、私がアレクを守らなければなりません。私は、自分でも驚くほど頭が冴えていました。どうしようもない困難に直面して、こんなにも挑む気持ちになれるのは、きっと私がアレクを好きだからでしょう。
「差し出がましいようですが、私がお聞きしてもよろしいでしょうか?」
私の発言に、ちらっと私を見た皇帝が答えます。
「うむ、言ってみろ、あざの娘」
「では。アレクはあなたが父親である証拠を欲しています。何か親子と証明するものはありますか?」
大分直球な質問ですが、アレクはすぐに私の質問に乗じて、私に同意してかばうように言葉を続けます。
「そのとおりです。俺は、確かにあなたが父であるとまだ信じ切れていません」
「そうか、無理もないな。いくら慣習とはいえ、今まで放っておかれて突然親子の再会と言われても、馬鹿馬鹿しいだろう。余もそうであったよ」
皇帝は何一つ戸惑っていません。こう言い切ります。
「証拠などない。髪と目の色が同じだからと言って、証拠にはなるまいよ。だからだ、ここでお前に選択権をやろう」
どこまでも上から降ってくるような、圧迫感しか与えない皇帝を、私もアレクもきっと睨みすえます。
何を言われても、答えられるように。
皇帝はアレクへ奇妙なことを言いました。
「余はお前を息子と認めるつもりがある。しかしお前は余を父と認めるか、それとも拒絶するかを選べる。どうだ、どちらを選んでも余は受け入れてやろう」
それは、アレクの進む道を、皇子となるか他の道を選ぶか、今ここで決めろと言っているにも等しいことでした。