第十七話 事故の真相
少しして、アレクを介して私の手元に懐かしい人から手紙が届きました。
「マギニス先生から? どうしてこれが?」
差出人は王立寄宿学校のマギニス先生の名前が、宛名にはちゃんと私の今の名前が記されています。間違いありません、マギニス先生が私を元メリッサ・アンカーソンと知って、手紙を出してくれたのです。
「ワグノリス王国での調査の途中で、彼女に接触したんだ。アンカーソン伯爵家の、エミーのことを話したら快く協力してくれることになって、それで手紙を預かってきた」
そういうことのようです。ちらりとマギニス先生のことは話していましたが、まさかアレクに協力してくれるような関係を築いて、またこうして交流を持てるとは私も思ってもみませんでした。
私は手紙の封を開け、中を確かめます。
しかし、そこには驚くべきことが記されていました。
「え?」
短い手紙には、マギニス先生の近況が書かれています。
命の危険が差し迫っている。あの事故の真相を知る私は、ワグノリス王国にいてはもう生きていけないだろう。
私はアレクを見ました。このことはアレクも知っているのか、と問いかける前に、アレクは私をなだめます。
「大丈夫、彼女は保護している。今頃、護衛を伴ってアスタニア帝国へ入っているだろう。君のあざの原因となった事故、あれで彼女の夫は事故死を装って殺された」
実際には脅しで済ませるはずだったかもしれないが、とアレクは付け足す。
「当時のマギニス男爵は羽振りがよかったものの、テイト公爵への財政支援を断ったせいで見せしめのように殺害された。それ以来、他の貴族たちは命が惜しくてテイト公爵家に従わざるを得ず、金を搾り取られていた」
それが、あの事故の真相だったようです。
事故を引き起こした犯人はテイト公爵家。当時のマギニス男爵、つまりマギニス先生の夫は命を狙われ、殺された。そのことをマギニス先生は知っていて、もしかするとご自身で調べたのかもしれません。そして、そのことを知られると不都合であるテイト公爵家は、今となってマギニス先生を狙っている。
何とも、身勝手なテイト公爵家のやり口に、私は青ざめるばかりです。そんなことで人の命を奪って——さらには金を脅し取り、そしてアンカーソン伯爵家にも手を伸ばした。
「そんな中、何も知らないアンカーソン伯爵家が婚約をエサに釣られて、テイト公爵家への財政支援を行いはじめた。他の貴族からすれば、アンカーソン伯爵家から金が供給されるかぎり、自分たちが強請られることはない。誰もアンカーソン伯爵家へ事故の真相を語らなかった、というわけだ」
それなら、私の父母だった人々の行動も頷けます。自分の娘を傷つけた犯人のことを、何も知らなかったのです。テイト公爵家との婚約という降って湧いた幸運にまんまと食いついて、家は安泰だと呑気にしていたのです。
「もしかすると、テイト公爵家には当初婚約には事故で大きな怪我をしたエミーへの償いの気持ちがあったかもしれないが……もはや、今となってはそれも完全に失われた。彼らにかける情けは無用だ、これから俺はこの話をワグノリス王国中に広める。テイト公爵家の醜聞はワグノリス王国を揺るがすだろう、アンカーソン伯爵家にも影響は出る。アスタニア帝国中の商会はアンカーソン伯爵家との貿易を停止し、他の国との貿易へ移行するはずだ」
残酷なようですが、私にはどうすることもできません。何かをしてやる必要性は、微塵も感じません。彼らは報いを受ける、ただそれだけなのですから。
テイト公爵家は醜聞によって最後に残った家柄も汚れ、アンカーソン伯爵家は誇っていた財産を失う。ここまで来れば私の元婚約者のヒューバートと妹のライラがどうなるかなど、些細なことです。ワグノリス王国は大騒ぎ、どこまで誰に影響が及ぶのか、もはや神のみぞ知るというところでしょう。
「あとは、放っておくだけでいい。ワグノリス王国がどこまで踊るか、俺たちは見物させてもらおう。エミー、お前をつらい目に遭わせた連中は地獄の底で後悔するんだ、お互いを呪い合ってな」
アレクは冷たく、無機質にそう言い放ちました。
彼にとっては、私のための復讐を兼ねていて、ワグノリス王国がどうなってもかまわないとさえ思っているのでしょう。
それでもいいと、私は思います。