表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/32

第十六話 付け入る隙

 アレクの求婚を了承して、数日が経ちました。


 私は店でアレクと一緒に、持ってきてもらった本を整理していました。


「なあ、エミー。言いづらかったら言わなくていいんだが」

「何でしょう?」

「少し、気になることがある。お前の家のことを教えてくれないか」


 私は嫌な思い出が頭をよぎりましたが、すぐに気持ちを切り替えます。


 アレクは将来の妻について知っておきたいだけだろうし——何より、アレクはアスタニア帝国の皇子となる人間です。いかに平民の娘と結婚していいとはいえ、素性の知らない女を傍に置くわけにはいかないでしょう。調べなくては周囲も納得しないと思われます。


「分かりました。でも、私はもうあの家とは縁を切っていますから、調べるのなら絶対に関わりを知られないようにしてください」

「ああ、気を付ける。それは大丈夫だ、バルクォーツ女侯爵にも協力してもらう」


 それならば、と私はアンカーソン伯爵家のことをアレクへ教えました。すぐに何かが分かるとも思えませんし、特に私は後ろめたいこともないので、あとはいいようになるでしょう。


 ついでに、私は元婚約者のことも言っておきました。テイト公爵家のヒューバート、私を捨てたあの男のことです。その話をしたところ、アレクは怒っていました。


「なんて無礼な、無神経な男だ。そんな人間がワグノリス王国の貴族なのか。テイト公爵家の名前は聞いたことがある、家柄や血統はワグノリス王国随一だと。だが、それだけだったようだ」


 ワグノリス王国の文学を愛し、ある種の憧れもあったであろうアレクの落胆は、目に見えるようです。何だか、私は申し訳ない気持ちになりました。


 しかし、アレクはこんなことも口にします。


「だが、財産目当てに結婚、ということは……財政の内情は相当悪いようだ。アンカーソン伯爵家が貿易で財をなしているとはいえ、そこまであからさまにできるほど隠す必要がない、とも思える」


 なるほど、と私は感心しました。アレクはほんの少し話を聞いただけなのに、そこまで推測できたようです。


「おっしゃるとおりです。テイト公爵家の財政は火の車で、年々悪化しているという噂でした。だから、アンカーソン伯爵家がそれを援助して、両家の間に生まれた子にテイト公爵家とアンカーソン伯爵家の爵位を同時に受け継がせれば、という話だったようです」

「それならアンカーソン伯爵家も後継問題を解消できる、か。現状、お前の妹が女伯爵になるしかないが、女が爵位を継ぐのは色々と制限がある。大抵は未亡人か、最初から女系と決められている貴族しかできない」

「ええ、ですからアンカーソン伯爵家も渡りに船だったようです。家を残すため、またテイト公爵家の家柄の恩恵に与るため、という話でした」


 私の話を聞いて、アレクはうーむと唸っていました。


「その話が本当だとすれば、ワグノリス王国の情勢は意外と、付け入る隙があるのかもしれないな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ