第一話 『天使リュミエラ』
「きれいだ…」
その日、天使との戦いが嫌になって
隠れこんだ教会のような場所で
俺はとてもきれいなものを見た。
「聖母……マリアの像…?」
白い彫刻の台座には、そう聖母マリアの像と書かれていた。
この像のモチーフになっている女性の名前だろうか?
それから俺は仲間から見つかって、殴られて蹴られて「臆病者」と罵られた。
あれはいつ頃の思い出だったか…
正確な時期なんて、もうすっかり思い出せない。
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<天暦6541年 人間よりの境界点J>
「こ…ここ、こんにちは!!」
古い田舎町にある教会のドアが開けられる。
来訪者はまだ幼い少年の姿をしている。
顔は人間と大差ないが、頭に生えている硬そうな角と背から伸びる翼で
少年が魔族であることが判別できた。
「ここに……天使リュミエラって居ますか?」
震える声で、悪魔の少年は天使の名前を呼んだ。
協会の中に人影はなく、ステンドグラス風の窓から陽光が差し込むのみ。
木製の椅子が並んでいるが、そのどこにも人の姿はない。
もちろん天使の姿も。
それでも少年悪魔は続ける。
「この協会にはリュミエラって天使がたびたび来ていて、人間をたくさん救ってきたって聞きました……俺の、俺の兄ちゃんを助けてほしいんだ!」
必死の訴えが、ガランとした教会の建物の中で反響している。
すると…
「うるさい子供…あぁ、本当に煩わしい」
「ーっ!!」
無人だったはずの説教台に、髪の長い一人の女が立っていた。
陽を受けて輝く金髪に透き通る肌、青い瞳は絵画のように美しく印象的だ。
白い翼。それは背中から本当に生えているようだ。
「あんたがリュミエラか!?」
「そうですが。貴方は見たところ魔族ですね?良いんですか、こんな所に居て」
硝子のような瞳でリュミエラが少年を見据える。
「兄ちゃんが…っ!俺の本当の兄ちゃんなんだけど…もうずっと自分を罰して身体もボロボロになって…っ、ここには天界で一番やさしい天使がいるって聞いたから来たんだ!!」
「そうですか…」
リュミエラと呼ばれた女天使は、少年に背を向けて教会の天井を指さした。
「…?」
つられて少年も天井を見る。年代を感じるがしっかりとした材質の天井がある。それだけだ。
「神はすべてに等しく。すべてを見ています」
「ん…え、あぁ……。天使のあんたがそう言うなら……きっとそう…なんだろうな!信じるよ!」
「明日、あなたの兄をここへ連れてきなさい」
「え?明日?そんなすぐには…」
少年が言いたいことを言い終えるのを待つことなく
リュミエラと呼ばれた女天使の姿は忽然と消えうせた。
「う、ウソだろ……もう居ない……」
少年はグっと下唇をかみしめた。
天使と悪魔の物語に、女の子攻め(フェムドム設定)を盛り込んだものが書きたいな~と思い書き始めた新シリーズです。どの程度のボリュームと描写になるか未定ですが、ぜひお付き合い頂ければ嬉しい限りです♪