表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

助けなくていいよ、勇者様

作者: 白湯

唐突にはじまって唐突に終わる。

ノリと勢いで書いたため、展開が急です。


誤字・脱字、設定のミスにはご了承下さい。


魔王の凶刃が、私に向かってくる。


「ソフィア‼︎」


勇者様の、声がする。


やっと、贖える日が来たんだと、そう思った。




* * * * *









「ありがとうございます、勇者様!」

「助けてくれて、ありがとう!」


たくさんの人が、一人の青年を囲んで溢れんばかりの感謝を表している。

その青年もまた、一人一人に向き合って話す。

それは、とても理想的な風景だ。

どこまでも、造り物めいてる程に。


輪の中の一人の子供が、私の方へやって来る。


「聖女様も!ほら、こっちに来て!」


私もまた、引っ張られるままに勇者様の方へ行く。


「聖女様も、本当にありがとうございました」

「貴女様がいなければ、今頃どうなっていたのか…」


それに気づいた人々が、私にも感謝を口にする。


「そんな…。私の力など微々たるものです。すべては、仲間たちがいたおかげですから」


そう言う私に、勇者様がカラカラと笑う。


「ソフィアは謙遜しすぎだよ。ソフィアがいなければ、出来なかったことだってたくさんある。感謝くらい、素直に受け取っておけばいい」

「そうなのです。ソフィアはもっと自分に自信を持つべきです。私くらい」

「いや、お前は持ちすぎなんだよ。もっと自重しろ」


輪に近づいてきた、魔法使いと斧使いも口々に言う。


「み、皆様がそこまで言うのなら…」


笑顔が広がる。

数えきれないほどの、私の嘘と罪も知らずに。


ねぇ、違うの。

私は誰かに感謝されていいような人間じゃない。

ずっとずっと、許されない罪を重ねてる。


今までも、今この瞬間も、これからも。










この世界には、魔王という人類に仇なすものがおり、それの対になるように、圧倒的な力を持つ勇者と言われる者がいる。


魔王という大災害が現れると、それに伴い勇者が現れ、魔王を倒す。

そうして、世界は回ってきた。

これは、世に伝わっている有名な話。


でも、事実とは基本絵物語とは、かけ離れているものだ。

勇者に関しても、例外ではない。


もちろん、魔王と勇者のシステムは、絶対だ。

しかし、勇者が人類の希望となり、魔王を倒すというのは、絶対的な法則ではない。

勇者も、勇者が救おうとしているのも、人だ。

人が過ちを犯さないはずがない。


ある時は、人を救いたいと願わない勇者が、魔王の蹂躙を見て見ぬふりをした。

ある時は、人々が勇者を裏切り、怒りと憎しみに駆られた勇者が、人類に刃を向けた。


人類は、あまりにも勇者という不確定のものに寄りかかるすぎている。

このままでは、いつ人類が滅びてしまうかわからない。


だから、人々は考えた。

どうしたら、勇者は自分たちを救ってくれるのか。

どうしたら、自分たちの安全が保証されるのか。


ならば―――


その不確定を、絶対にしてしまえばいい。


勇者が、絶対に裏切らないように。

勇者が、絶対に魔王を倒すように。

勇者が、絶対に人類を救うように。


勇者であるとわかった瞬間から、その身も心も魂も、すべてを縛って。


そして、その役目を聖女という名のものに与えた。

常日頃から、勇者に人類を救うよう魔法をかけて、裏切らないよう、監視するために。


私が聖女に選ばれたのも、何も治癒魔法や聖魔法が出来たからではない。

それなら、私より優れている人なんて、山ほどいる。

ただ、私が封印魔法や精神干渉系を得意としていただけだからだ。


聖女は、決して綺麗な存在ではない。


魔王など笑えないほどに汚れ、人々の咎を背負い続けている。












「勇者様、今大丈夫ですか」


魔法使いと斧使いが寝静まったあとを見計らって、勇者様に声をかける。


「うん、大丈夫だよ。いつでもどうぞ、ソフィア」


勇者様は、笑ってる。

ちゃんと、私のことを大切な仲間として扱ってくれる。


憎むことも、怒ることも、何もかもを許されてないから。


でも、本当は何を思っているんだろう。


誰かの盾となるのは、怖いだろうな。

誰かの痛みを代わりに受けるのは、苦しいだろうな。

勇者だからと、すべてを救えと言われるのは、つらいだろうな。


きっと、私のこと、殺したいくらい憎いだろうな。


でも、今日も無視して勇者様を縛る。

それが自分の役目だから、なんて言い訳をして。


名だたる精神魔法の使い手たちが作り上げたこの鎖に、綻びがないか、一つ一つ確かめる。


「…もう大丈夫です。ありがとうございました」

「うん。ソフィアも、おやすみ」


謝ることができたなら、どんなによかっただろうか。

きっと、勇者様は笑って許しの言葉を言うだろう。


だって、そう振る舞うことしかできないから。 


私が、そうさせているから。


ぎゅっと、目を瞑る。


暗い微睡みは、私の罪を少しだけ隠してくれているようで、心地よい。


そうしてまた、きっと明日も私は罪を重ねるのだろう。











* * * * *










ずっと前から、決めていたことがある。


私が勇者様にしていることは、紛れもなく悪だ。

しかし、そうしなければ助けられなかったかもしれないものもある。

私は、それを否定することができない。

それらは私のものじゃなくて、私が勝手に捨てていいと言っていいものじゃないから。




―――でも、一つだけ、この身だけは、私が自由にしていいものだ。



だから、決めていた。


もしも、もしもこの身に何かがあったなら。

私に、私だけのために勇者様が手を伸ばしたなら。


こうしようと。




「ソフィア‼︎」


魔王の刃が届かんとする私に、勇者様が、手を伸ばす。


ああ、遂にこのときが来たんだ。

心のどこかで、ずっと待ち望んでいたときが。




ねえ、勇者様。

私がこんなこと望むのは、筋違いだけど。


それでもね、貴方には、笑ってほしかったんだ。


ううん、笑うだけじゃなくてもいい。

時には怒って、悲しんで、憎んで。


全部、貴方のままでいてほしかった。


誰のためでもなく、貴方のためだけに生きてほしかった。


だから―――




伸びてきた手を振り払う。


勇者様の、驚いた顔が視界の端に映った。

それがなんだか可笑しくて、少しだけ笑ってしまう。


そして、ありったけの力を集める。



私は聖女だけど、基本的に聖魔法は使わない。

なぜなら、聖魔法は勇者を縛る魔法を解いてしまうから。


でも、今だけは―――






「助けなくていいよ、勇者様」



どうか、貴方が心の底から救いたいと、そう思ったものだけを救えますように。







ぱちん、と鎖が切れる音がした。











ここからは作者ではなく読者目線ですが。

このあと勇者様が聖女様の本当の優しさに触れて、後悔する悲恋的展開もよし。

あるいは聖女様が奇跡的に助かるご都合的なハッピーエンドでもいいな。

物語的には前者ですが、キャラの幸せを願う身としては、後者が良いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ