バカは死ななきゃ治らない
俺は死んでしまった…。
馬鹿な事をしたと後悔ばかりだ。
今回は、高速道路を三輪車で走ったら面白いんじゃないか…と言うのが始まりだった。
友達四人で集まり、車でPAに到着。
車の運転席のミラーと三輪車をロープで繋ぎ、俺が三輪車に跨がって出発した。
俺のトライシクルドライブテクニックは、加速する車にぴったり付いていった。
ペダルはありえないスピードでクルクルと回っている。
がたがたとハンドルがぶれるが、力で抑えこんだ。
友達が窓から顔を出して、大喜びをしている。
そこまでは良かった…。本線合流までは。
時速八十キロで本線に合流したとたん、俺の三輪車は追い越し車線にいた。カーブで隣の車線に振りだされたのだ。
走行車線から三輪車が出てくるなんて誰も想定していないから、追い越ししようとするトラックの運転手のブレーキは間に合わなかった。
気がつくと俺は花畑に立っていた。
それから花畑を歩いて、川を渡った。
死んだのは間違いないだろう。かれこれ半時間ほど平坦な道を歩き続けている。
歩きながら、他にもやった馬鹿なことを思い出していた。
ある日、ペットボトルロケットで空を飛ぼうと思い立った。
テレビのバラエティで見たのは、ペットボトルロケットを背負うタイプで、バランスを崩して前のめりにずっこけていた。
めちゃくちゃ笑った。
じゃあ、ペットボトルを足に履いたら空飛べるんじゃない?と考え、仲間四人で馬鹿でかいペットボトルロケットのブーツを作った。
河川敷で実験しようとしたら、雨が降ってきた。それで橋の下へ移動したのがまずかった。
ペットボトルの勢いで、俺は橋梁に頭を強かに打ち付け墜落した。
死ぬほど痛かったが、とても楽しかった。
俺はついつい思いだし笑いをしてしまった。
「おいおい、死んだって言うのに何でそんなに楽しそうなんだ?」
声に振り向くと、道の脇の木の根本に人が座っていた。暗い顔をしていた。
俺はそいつの隣に座り、自分がやった事を少し盛って話した。
辛気臭い顔を、少しでも明るくしてやりたかったのだ。
「お前は面白いやつだな。」
そいつは笑った。そして、助手席側のミラーにロープを繋げば死ななかったんじゃないかと言った。
「もし次の機会があれば、そうするよ。」
俺はそう答え、今度は二人で笑った。
そいつは俺について行きたいと言い出した。一人で歩くのもつまらないし、一緒に行く事にした。
俺たち二人は、お互いに今までやった事を色々話した。
氷の張ったプールに飛び込んだのは面白かった。
氷を突き破って飛び込んだら格好良いと言うことで、クラスの奴四人と冬に小学校のプールに忍び込んだのだ。
一人目は飛び込み台の上から飛び込んだ。
足先から綺麗に入ったから、パキョって小さな音しかしなくて、氷にちょっとした穴が空いただけ。
もう一人はプールサイドを走って飛び込んだ。
上からじゃなくて、横から突っ込む作戦だったわけだ。
しかし、そこは氷が厚かったみたいで、ツーっと滑って反対側まで行ったんだ。
それで俺は、プール監視員用の脚の高い椅子によじ登って、頭から飛び込んだ。
ザッパーンと、すげえ水飛沫と氷の破片撒き散らして、最高だった。
ところが、小学校のプールって底の浅い場所があるだろ。
頭打っちゃって、しかもさっきの厚い氷の下に入ってしまってさ。
息もできないし、死ぬかと思った。
しばらく二人で大笑いしながら歩いた。
山の麓まできた時、別の二人組に出会った。
「なんでお前らはそんなに楽しそうなんだ。」
それで俺たちは、お互いの面白武勇伝を披露しあった。
話をするうちに、気分が盛り上がってきた。
折角だから、四人で何かやってみようと誰かが言った。
面白そうだと俺も乗った。
高い崖の下を歩いているとき、出し抜けに思いついた。
「忍者のムササビの術って知っているか?」
「知ってる。風呂敷を手足に結んで、高いところからパラシュートみたいに飛ぶやつだろ。」
「テレビで見たんだが、本当にムササビみたいなスーツ着て、滑空って言うの? すげぇ飛ぶスポーツあるんだ。やってみねぇ?」
話はトントン拍子で進んだ。
誰かがどこからか布を集めて来てくれたので、工作の得意な俺が、それぞれの服に縫いつけ、四人分のムササビスーツを作り上げた。
崖の頂上を目指す。
さすがに崖を直接は登れないので、崖沿いに歩いて登れそうな場所を見つけた。
何度か崖から落ちそうになったが、それも楽しかった。
仲間と一緒に何かをやる事が最高の喜びなんだと実感した。
「綺麗だ…」
無事に崖の上についた時には、感動して少し涙がでた。絶景だった。
大地には薄くモヤがかかり、遠くに大きな河が見える。今まで歩いていた道が、細い線にしか見えない。
四人は互いに気合いを入れると、ムササビスーツで絶景の中に飛び込んだ。
気付くと俺は花畑に居た。
地獄の閻魔はため息をついた。
「やはり、馬鹿は何度死んでも治らないか…。」