2-4 ジョンは読書が好きだが体力はない
少し歩くと
ジョンが見慣れない看板の店を見つける。
ジョンのいた街では
貴族だけが歩き回れる通りだけにあると聞いていた店だ。
「本……?
本ってあの本ですか?
ブック!?」
ジョンは看板を指差しながら両腕をブンブンと振る。
「ああ、物語などが
書かれている本だが……」
「ジョンの表情が今日一番輝いてるメェ」
神様もヴィタリーも驚きつつ
ジョンの反応に目を細めていた。
確認するや否やジョンは店先に走っていき、
開けっ放しのドアから中を覗く。
「すごい……。
ここって貴族だけが来れる場所って
わけじゃないんデスよね?
平民も歩いてる街の中に本が売られてるなんて、
信じられない」
「本を作る技術は
街によっては当たり前にあるメェ。
この街も最近作ったけど、
ここに売られてる本はみんな輸入品で――」
「神様、ジョンは説明を
聞いてる気分じゃないようだ」
ジョンは入って良いのか迷いつつも、
入り口を覗き続けていた。
入れるものなら即突入したいと言いたげに
ソワソワと体を左右に揺らす。
「入ってみるメェ」
「やった!」
ジョンは声を上げるとすぐに入り口に入っていった。
「すごい。本当に売られてる……。
しかもちゃんと買える値段」
店に入るなりジョンは、
異世界にでもやってきたような目で
周囲を見渡していた。
対して神様もヴィタリーも、
そんなジョンを珍しい目で見ている。
「珍しい。本に興味があるのかい?」
本棚の後ろからゆっくりと出てきたのは
ヒューマンのおじいさんだ。
ここの店主だろう。
「はい!
幼い頃から読んでました!」
ジョンの大きな返事におじいさんはにっこりと笑う。
「それは珍しい。
貴族とかの出身ってわけでもなさそうなのに」
「店主、来たメェ」
「おやおや、
神様のお連れ様でしたか」
「街のためになりそうな逸材を見つけたから
保護したんだメェ」
「ほうほうそれはおもしろそうですな。
そんな逸材さんはどんな本をお求めで?」
「あ、でも僕ここで使えるお金がないんだった」
おじいさんに言われてジョンは気がついたのか、
ぽかんとした口でつぶやいた。
そして自分が今は
買い物もできないほど貧乏であることに愕然として、
がっくし肩と頭を落とした。
「そのために仕事を探してるんだメェ」
「今は住む場所とかには困ってないだろう?」
神様とヴィタリーが言いながら
ジョンの肩を優しく叩いてくれた。
「ふぉっふぉっふぉ。
子供扱いするわけじゃないが、
またお金をためて来るといい。
いつもこんな感じじゃから、
冷やかしも歓迎じゃ」
「街で字を読めるひとはまだまだ少ないメェ。
だから本屋が儲かるようになるには
何年も必要になりそうなんだメェ」
神様は申し訳無さそうに言った。
(もしかして、あまり繁盛してないの?)
今日見て回ったお店のなかでは
一番ひとが少なかった。
というより、今も自分たち以外の客は入ってない。
素人目で見ても品揃えは決して悪くないどころか、
ジョンからすれば片っ端から読んでみたいと思うほどいい。
「でも神様のおかげで、
わしはこの歳になって夢を叶えることができた。
感謝しきれんよ」
それでもおじいさんは満足そうに笑った。
それが不思議でジョンは首を傾げる。
「店主はどうしてこの街に?」
「家族といっしょに移住して来たんじゃ。
最初は渋々だったんじゃが、
あるとき神様に若い頃の夢を聞かれてな。
本屋をやることだって答えたら、
あっという間に開くことになってしまったんじゃ」
「じいさんも神様の口車に乗せられてしまったんだよな」
ヴィタリーは肩をすくめて、
わざとらしくおじいさんの代わりにため息をついた。
「まさにそのとおり。
お主もやりたいことがあったら言ってみるといいぞ」
おじいさんはジョンにも同じように
夢を叶えてほしいと言いたげに笑った。
「まだ見つけられてはないですが、
お金がもらえるようになったら、
本を買いたいですね」
「では、また来ると良い。
いつでも歓迎するぞ」
#
「疲れました……。
おふたりはいつもこんなに歩き回ってるんデスか?」
神殿に戻ってくるなりジョンは疲れて座り込んだ。
ちょうどお昼少し前で食堂が空いていたのがよかった。
「そうだが、ジョンは本屋ではしゃぎすぎたのもあるだろ」
「元からあまり体力もないと思いマス……。
力Cデシタから」
「力のパラメータと体力は関係ないが……
ジョンの様子を見るに、
頭を使う仕事のほうが向いてるんだな」
「午後からは神殿の外に出ずに
おふたりの仕事を見学しマス」
「ひとつ方向性が定まったメェ」
「でもそういう仕事は地位や資格が必要なのデハ?」
「メーの街ではそんなのないメェ。
貴族じゃないと働けない仕事があるとかめんどくさいメェ。
向いてる仕事に就くのが一番うまくいく」
神様はそう言いながらジョンに水を差し出してくれた。
「ありがとうございマス。
わざわざ神様に水を出させてしまって恐縮デス」
「そんなのいいメェ。
メーがしたいからしたけメェ」
神様はにっこりと笑ってくれた。
それを見てジョンはコップに口をつける。
「皆様お疲れさまでした。
ジョンくん、羊神様の街はどうでしたか?」
お昼休みになったからか、
シームリャがやってきた。
「すごい活気のある街だって思いマシタ。
ひととものの行き来がたくさんあって、
その分街がキレイで潤ってて。
こんな街をさらに良くしようと
神サマが自分の足で歩いて、
自分の目で見ている。
神サマのこと尊敬しマス」
「うんうん、もっと褒めるメェ」
「あまり褒めると調子に乗るから、
ダメ出しするくらいがいいぞ」
シームリャと比べることも難しい胸を
誇らしげに張った神様に、
ヴィタリーは水のように冷たく言う。
「いえ、こんなにガンバってるのに
けなすようなことは言えマセんよ」
「いいや、気づくことがあったら
気軽に言ってほしいメェ。
道を歩いていてつまづきそうになったとか、
店の看板が見づらいとか
そんな些細なことでもいい」
「ええ……そんなケチつけるような」
一転して神様から
また思ってもみない言葉が出てきた。
ジョンはまばたきをしながら
本気で言っているのが分かる神様の目を見る。
「ケチじゃないメェ。
いや、メーはケチだけど」
「分かってるじゃねーか」
ヴィタリーの煽りを無視して神様はジョンを見ていた。
(気がつくことって……
神サマは自分の目で
街を見ていらっしゃるんだし、
ボクが改めて言うまでもないような)
ジョンが困っている様子を見せているからか、
神様の方から口を開く。
「もしつまづきやすい場所があったら、
子供や老人には危ない。
すぐに道を治す必要があるメェ。
看板が見えにくいということは、
そのお店がお客さんを逃している可能性がある。
そういう問題は小さいうちに片付けたいんだメェ。
そのために午後から
メーは面会予約に対応するんだが……
気が重い」
神様は理由を言ってから顔をしかめた。
さらにつられるようにヴィタリーも顔をしかめる。
「ではお昼ごはんにしましょう。
ご飯を食べればお仕事もはかどりますよ」
シームリャはふたりを励ますようにニッコリと笑った。
良ければ評価、
続きが気になりましたらブクマ、
誤字脱字が気になりましたら誤字脱字報告、
とても良いと思いましたら一言でも感想をいただけると
嬉しいです。
雨竜三斗ツイッター:https://twitter.com/ryu3to