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2-2 美人補佐官とジョンのパラメータ

にぎやかな食事を終えると

仕事場へと案内される。

「ここがいわゆる謁見の間だメェ。

 謁見なんて大それた言い方をするけど、

 要は面会場だメェ」


謁見の間と言われて想像するのは、

まず王様と会って話をする場所。

という感じで、ここも同じような作りになっていた。

違うのは大きな街の地図が置かれていること。

そこには覚書や、

工事をした記録、

地図を更新した日付などが記されている。


「やっぱり神サマの席は高く作られてマスね」

神様が座るであろうと思われる椅子は豪華だ。

きらびやかな装飾や素材ではなく、

ふかふかで、長時間座ってても腰やお尻を痛くしなさそうな作りになっている。


「神様が小さいからな」

「そうそう、

 獣人とか魔族は背が高いヤツが多いから、

 同じ高さで話をすると首が疲れて……

 メェ!」


ヴィタリーの言いたいことに時間差で気がついたようだ。

神様は驚いたような声を上げてから

ヴィタリーをポカポカ叩き出す。

当然痛くはなさそうだ。


「おはようございます。

 神様、ヴィタリーくん」

後ろからとても大人びた女性の声が聞こえてきた。

騒がしいメグミとヴィタリーの声に挟まっても聞こえる、

通りのいい声だと感じる。


「おはよう!」

「おはようございます」

メグミは元気に、

ヴィタリーは礼儀正しく挨拶を返した。


この街で一番えらいであろう神様にも

しない対応をヴィタリーがした。

ジョンはすぐに声の主が気になり顔を向ける。


声の印象通りの女性がいた。

キレイな曲線を描く顔に高価な丸メガネをかけ、

長い緑髪は三編みに結ってあり、

そんな様子が知的な印象が上乗せされる。

身長は自分やヴィタリーより高く、

神殿で働く他のひとたちと同じような、

白と青の長いドレスがとてもよく似合っていると思った。

それに加えてジョンの目に止まったのは、

鳥人族の証である畳んでも目立つほどの大きな白い羽根。

そんな女性は次にジョンににっこりとした優しいまなざしを向けた。


「あなたがジョンくんでよろしいですか?」

「はい。おはようございマス」

慌ててジョンも挨拶を返した。

「わたくしはシームリャ、

 神官ヴィタリーくんの補佐官です」


「補佐官?」

「俺は貴族でも魔術師とか魔法使いでもない。

 だから慣れない仕事やできない仕事とかは

 シームリャさんに手伝ってもらってるんだ」


「というわけです。

 わたくしでもお力になれることがありましたら、

 よろしくおねがいします」

見たこともないほどていねいで、

きれいな礼だった。

自分のような相手にするのは

大げさな礼だと感じる。

それほどの礼をされても返せるものはない。

なので、ジョンはシームリャよりも深々と礼をした。


「こ、こちらこそよろしくおねがいしマス」

下を向いてしまったので

声はこもってしまった。

それでも、顔を上げたときシームリャは

目も含め微笑んでいたので

無礼な対応ではなかったのだろう。

ジョンは軽く息を吐いて安心した。


「今日の神様とヴィタリーくんの

 ご予定をお伝えいたします。

 午前中は街を視察――」

「その前にジョンのパラメータ鑑定をさせたいメェ」


「分かりました。

 このあとにお願いします。

 午後からは神様は面会の予定が

 びっちりと入っております。

 ヴィタリーくんは書類整理などが遅れておりますので

 そちらを。神様にはわたくしがつきます」


「メェ……」

「うへぇ……」

神様とヴィタリーが揃ってイヤそうな声を上げた。


「がんばってくださいね」

シームリャはそんなふたりの反応に対して

笑顔で励ました。


あるいは『逃げないでくださいね』と

言わんばかりの笑顔でもある。

普段から笑顔のひとは

怖いという創作でのお約束が通じた。

それを感じたジョンは、乾いた笑いをあげる。


「ジョンくんは午後、いかがしましょう?

 神様やヴィタリーくんの仕事の見学でも、

 自由に街を歩くでも構いませんし、

 案内人もつけますけど」

「えっと、どうしようかな……」

まだ自分はなにができるのか、

どうしたいのかも分からなかった。

文字通り右も左も分からない状態で、

ジョンは答えに迷う。


早く答えろと言われると思った。

けれども、シームリャは穏やかな表情で

こちらを見ているだけだ。

さらに神様も答えを急かしたりしない。


「街を見てから決めたらどうだ?

 街のことなんて分からないだろうし、

 そこで面白そうなのを見つけたら

 午後からそこを見学って感じにできると思うぜ?」


そんな迷うジョンを見かねたからか、

ヴィタリーが妥当な提案をしてくれた。

「そうしマス……」

「ヴィタリー、メーみたいなこと言ったメェ」

「そうか?

 迷ったとしても、

 行動してみないと進まないってのは当たり前だろう?」

そう言ってヴィタリーは部屋を出ようとした。

「パラメータ鑑定は別の部屋でやるぞ」



「俺は魔力が弱いからな。

 専用部屋でいつも鑑定をしている。

 魔術師や大工に高い金を払って作ってもらったんだ。

 だから精度は保証する」


 そう説明をしながらヴィタリーは術式の準備を始めた。

「すごい部屋ですね。

 僕も魔力がないので

 専門的なことは分かりマセんが、

 ヴィタリーサンが立派な神官だということは分かりマス」


部屋は眩しいほどたくさんの装飾が施されていた。

もしかしたら装飾自体が魔術を発動、

あるいは補助させるための魔術刻印や呪文が

書かれたものなのかもしれない。

さらに部屋を灯すように吊るされている魔石も、

もしかしたら儀式の道具なのだろう。

ジョンが呆然と部屋を眺めている間にも、

ヴィタリーは魔石の明かりを灯したりしている。


「そうだろうそうだろう。

 メーの神官だからな」

対して神様は偉そうに

平たい胸を張っているだけだった。

神様としては正しい態度なのかもしれないと

ジョンはそれを見て思う。


「なんで神様が自慢げなんだよ。

 それにこんな魔力が少ないのに

 よく神官の仕事ができるなって、

 俺自身思ってるよ」


「魔力がないとできないんですか?」

「基本的にはな。

 ご利益とか道具の補正なしのC以上は

 普通あってほしい仕事だと思う。

 パラメータの鑑定以外にも

 神様の護衛にも魔術は使うし、

 神様のご利益を代理で与えることも本当はできる。

 ご利益ありでようやくC判定の俺はできないけどな」


「その代わりといってはなんだけど、

 メーは年に一度街にいるすべてのひとに

 ご利益を与える儀式をしているメェ。

 当然いっぱい魔力を使うから、

 本当に年に一度、

 お祭りをひらいて儀式をするんだメェ」


「話がそれたな。

 パラメータの鑑定は依頼が多い割に、

 この街でパラメータを見れるのは俺だけで、

 予約も必須だ。

 この時期に見てもらおうと思うやつは少ないが、

 祭りのあとはご利益の確認に来る連中で

 今から予約が埋まってるし……やれやれ」

ヴィタリーは先のことを考えると今から疲れる。

と言いたげに、だるい動きで肩をすくめた。


「ごめんなさい、

 手間を取らせちゃって」

そんなヴィタリーの態度を見て

ジョンは目線を落とした。

足元もキレイな石畳で作られており、

かすかに自分の弱々しい顔を反射している。


「謝る必要はないメェ。

 これがヴィタリーの、神官の仕事だからメェ」

「確かに謝る必要はないな。

 ジョンは自分が助けられたと思っているかもしれないが、

 多分神様の新しいお金稼ぎに巻き込まれてるからな」


「そうメェ!

 ジョンは将来、

 この街に利益をもたらしてくれるメェ」

神様はからかっているのか、

本当に期待をしているのか、

小さな手でパンパンとジョンの背中を叩いた。

当然痛くない。


「そう期待されちゃうとちょっと緊張しマスね。

 このパラメータの鑑定で

 おふたりをがっかりさせるような結果が

 でなければいいんデスが」

「そんなのやってみなきゃ分からないメェ」


「パラメータの記号が人間のすべてじゃないさ。

 この街には筋力だけ力だけAのやつもいれば、

 総合的に高いひともいる。

 俺みたいに神様の加護がなければB以上の分野のないやつもいる。

 それでも自分しかできないこと、

 自分にできることを見つけて生活してるんだ。

 それに神様の近くにいれば

 常にご利益をもらっているのと同じくらいのパラメータになる。

 少しは期待してもいいんだぜ」


「なんだか今日のヴィタリーはよく喋るし、

 ジョンに優しいメェ」

神様が意外そうな顔でヴィタリーを見つめた。

ヴィタリーもそんな神様に対して顔を向けて、

「神様こそ、金づるを見つけたにしては、

 ジョンを贔屓目に見てるんじゃないか?」


「ジョンの才能にも期待しているが、

 それ以外のことにも期待しているメェ」

「それ以外のこと?」

「まあ、神様が何を企んでるのかわからんが、

 この街には仕事が溢れている。

 自分にできることを探すことは大変でも、

 ジョンにできることはあるはずだ」

「僕にできること……、

 本当にあるでしょうか」


「それはこれから探すんだメェ!

 さぁヴィタリー始めろメェ」

「はいはい。

 それじゃジョン、

 靴を脱いで敷物の魔法陣の上に立ってくれ」

ヴィタリーはそう指示をして、

手に覚書をするためなのか紙を取った。

だが鉛筆やペンなどは持っていない。


「始めるぞ。

 鑑定、かの者を対象に力、魔力、知恵、技量、運気、そして黄金律を、

 我ら羊神メグミのもとに表し示せ。

 神の使いヴィタリーが命ずる……」


ヴィタリーの詠唱とともに

ジョンの足元の魔法陣が淡く光りだした。

驚き見下ろすが、

おそらくは足を動かしてはいけないのだと思い、

足に力を入れる。


次にヴィタリーの手に持っている紙が浮き上がり、

ひとりでに文字が浮かび上がった。

イポーニア語ではあるが、達筆で読みづらい。

紙に六つの項目が浮かび上がると、

魔法陣は光を失った。

同時に紙もふわりと床に落ちようとしだしたのを

ヴィタリーがやや乱暴な手付きで掴む。


「どうだメェ」

神様がぴょんぴょんと跳ねながら、

紙に書かれてるであろう鑑定結果を見ようとした。

ヴィタリーは仕方なさそうに神様の見える高さまで下ろす。


「力はC……」

「これは前に見てもらったときと同じですね」


「魔力はE」

「魔法使いじゃないので」


「知恵……Bあるぞ」

「えっ!?

 前に見てもらったときはDだったんですけど、

 何かの間違いじゃないんですか?」

「ううん、ヴィタリーの鑑定は結構正確だメェ。

 他の街から再鑑定に来るひともいるほどなんだメェ」


「それは言いすぎだ。

 自分の納得の行く結果が出るまで、

 街を渡り歩くヤツなんてごまんといる。

 それから器用C」

「これも前はDって言われました」


「運が元はDマイナスで今はC」

「これはさっき話したメーのご利益」

「ありがとうございます」


「それから黄金律が元はこちらもDマイナス……

 んで神様のご利益でA!?」

「はい?」

 ヴィタリーの驚きの言葉にジョンも目を見開いて声を上げた。


「すごいメェ!?

 ご利益があってもそんなに跳ね上がるなんてことめったにないメェ!?」

「本当ですか?」

「いや、俺が信じられないんだって」

顔をしかめながらヴィタリーは鑑定結果の紙を見せた。


ジョンは首を前に出し、

目を凝らしながらひとりでに浮き上がった文字を見る。

よくよく見つめてみれば、

たしかにヴィタリーの言うとおりの結果が書かれていた。


「黄金律って

『他人からしてほしいことを、ひとにしたほうがよい』

 という古代文書の由来の言葉で、そこから転じて

『どのくらいひとやお金や仕事に恵まれるか』を

 表すようになったパラメータですよね?」


「もちろんだメェ。

 やっぱりジョンは物知りメェ」

「そんな説明口調で確認しなくてもいいだろ」

「だって、驚くことばかりで……」

悠長に話していたと思ったら

急にジョンの口数は減っていった。

パラメータの用紙を見つめて、事実を再確認する。


「ジョン、お前、

 よっぽど見る目のない神官しか周りにいなかったんだな」

「それにしても祭りの前なのに

 ご利益の補正がすごい乗ってるメェ。

 これは仕事が選び放題じゃないかメェ?」


「そ、そんなことないと思いますよ……」

仕事が選び放題というのは言い過ぎに聞こえた。

よっぽど学業とつながり優秀な貴族か、

潜在魔力が純血エルフの平均以上でもなければありえない。

ジョンの中の常識ではそうなっているので、

神様の言葉は言い過ぎに聞こえてそう返した。


「なんにしても

 ジョン本人がなんの仕事をしたいかによるな。

 今日は俺達の仕事についてきてもらう。

 街を見てから気軽に決めるといいさ」

ヴィタリーは鑑定結果の紙をジョンに押し付けながら言った。


「気軽にって……。

 人生を左右する仕事をそんなんでいいんデスか?」

「合わなかったら転職すればいいし、

 また次の街に行くのもいいメェ。

 でもメーの見立てだと

 この街でジョンが路頭に迷うことはありえないメェ」


「本当でしょうか……?」

「そういうわけで、さぁ!

 街に出るメェ!」


羊神様を名乗っているのに、

散歩に行くのを喜ぶ犬のような陽気さで部屋を出た。

良ければ評価、

続きが気になりましたらブクマ、

誤字脱字が気になりましたら誤字脱字報告、

とても良いと思いましたら一言でも感想をいただけると

嬉しいです。


雨竜三斗ツイッター:https://twitter.com/ryu3to


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