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1-4 神様は仕事探しを手伝ってくれると言う

「ジョンは住んでいた街を出たと言っていたが

 宛はあるのか?」

よほどお腹が空いていたのか、

イーサの料理がおいしかったのか、

神様とヴィタリーはあっという間に

シチューやパンを平らげる。


それからヴィタリーはジョンとの話を進めた。

「ないデスね。

 仕事ができそうな街に定住できばいいんデスガ、

 そうじゃなくても当面の資金を集めないと……

 デモまさか前の街から持ってきたお金が使えないとは」


事実を思い出してジョンはまた肩を落とした。

ポケットの中のなけなしのお金が使えないという、

現実は今も続いている。


「まずは仕事探しか――」

「ならメーが斡旋する!」

普段ならば

店内の客全員の視線を独り占めできる大声を出して、

神様は宣言した。

ついでに靴を脱いで

椅子に足をかけて偉そうな姿勢を見せる。


「あっせん?」

「手伝っていただくってことでいいんデスカ!?」

さらにジョンが

視線を再度集めそうな声で返事をした。

神様は姿勢をそのままにドヤ顔を決める。

「もちろん!」


「そんな難しい言葉を知ってるとか、

 ジョンって頭いいのか?」

未だに『斡旋』の意味が分からないヴィタリーは

腕を組んだ。神様とジョンを交互に見る。


「いえ、前の街で神官に見てもらったら

知恵の判定はDでした」

ジョンは荷物の中からボロボロになりつつある、

パラメータ鑑定の紙ふたりに見せた。

革製の紙には力・魔力・知恵・器用・運・黄金律の

それぞれの評価と鑑定を行った神官の名前、

その街の神様の名前が書かれている。


「んなわけあるか。

 知恵Dって俺と一緒だぞ。

 やっぱり他の神官の言うことは信じないから、

 明日俺が見る。

 これも料金やお布施はとらん。

 多分取ると隣から叩かれるからな」

 用紙を見てからヴィタリーは、

やや乱暴な口調ながらも横目で隣を見ながら言った。


「ありがとうございマス。

 代わりにお金を払っていただいたり、

 仕事探しを手伝っていたけたり、

 泊めていただいたり」


「べ、別にメーは

 意味もなく優しくしているわけじゃない!

 これは『先行投資』というやつだメェ!」

「また難しい言葉を使うな。

 どういう意味だ?」


「将来的に自分の得になるように、

 お金を出したり世話をしたりすることデス。

 そんなふうに言っていただけるなんて、

 嬉しいデス。ありがとうございマス」


「ジョンお前、素直だな。

 俺は騙されたりしないか心配だぞ」

ヴィタリーがジョンを細い目で見ながら、

ため息とともに言った。

「優しい言葉をかけてください方を

 疑うわけにはいきまセン」

真っ直ぐなキラキラとした目を見たヴィタリーは、

諦めて目をつむった。

「そうか……」

「じゃあ神殿に案内するメェ!」



神殿は当然街の中心にある。

それは神が生まれると街ができて、

神が街を治めるからだ。

その様子は千差万別で同じものはひとつとしてない。

神が街を治めるやり方や、

街の発展や技術力、

神の性格などにより大きく変わる。


「立派な神殿ですね」

ジョンは神殿を見上げながらつぶやいた。

この街の神殿は灰色の石を使って作られている。

その色は神様の銀の髪や

羊の毛の色を再現したような色合いだとジョンは感じた。


そして大きい。


神様がこんなに小さいのに

神殿と街はとても大きい。

街に入ったとき、

奥に白い建物が連なっていると思ったが、

あれはすべて神殿の一部であるということが

近寄って初めて分かった。


元いた街にも大きな神殿はある。

それでも自分の身分や収入では立ち入ることはおろか、

近づくことすらもできなかった。

想像することしかできなかった空間に

近づくことができているというだけでも、

ジョンはワクワクとした気持ちで足取りは

思った以上に軽くなっていく。


「俺達には大きすぎる」

対してヴィタリーは

目を細めてそんなことを言った。

「働いている従業員も多いし、

 寮や役所を兼ねてるからこのくらいないとダメだメぇ」


「従業員?

 聖職者じゃないんですか?」

「神殿が役所をみたいな仕事をしてるから役人だな。

 うちの神様はあまり自分を崇めろとか言わない変わり者だ」

「メーを崇めて街が豊かになるならそう言う。

 でもメーは街を豊かにするのは信仰じゃないって思ってるメェ」


「なんですかそれは?」

「お金だメェ。

 だからメーは集まったお金は街を豊かにするために使ってる」

 メグミはニヤリとした表情で答えた。


「神サマって信仰されないと死んじゃうから、

 崇められるためにお金を使わないといけないのデハ?」

思わぬ言葉にジョンは目を丸くして聞いた。


それでもメグミはドヤ顔を崩さず、

「崇められたければそれだけの働きをしないといけないメェ」

とさも当たり前のことを語るように続けた。


「こういう神様なんだ。

 今までジョンが見聞きしていた神様の常識は

 まるで通じないと思え。

 むしろ神様は神様を語る商売人くらいに

 考えておいたほうがいい」

神殿を見る細い目のまま

ヴィタリーは投げやりな口ぶりで言った。


「はぁ……。神サマがそれでいいなら」

「いいぞ~。

『ひとは神のため』ではなく

『神はひとのため』に働くものだメェ。

 じゃあないと生まれた意味がない」

ヴィタリーはため息をついて、

ジョンは口を開けたままあっけにとられていた。

呆然とドヤ顔を決める神様を見つめるしかできない。


自分の中の神様のイメージを直している間に

神殿の大きな扉の前にやってくる。

当然頑丈にできており、

大魔術でもなければ壊すことはできないだろう。

今は半開きになっており、

汚れの少ない甲冑の男がその前に立っている。


「おかえりなさい、神様」

大それた敬礼をするでもなく男は挨拶をした。

主人ではなく家族や友人を迎え入れるような様子だ。

ジョンは首を傾げようとしたが、

ここではこれが当たり前なのだと考え首を戻す。


「うむ、ご苦労だメェ。

 今日も頼むな」

「こっちは客人だ。

 しばらく神殿や街を歩くと思うからよろしく頼む」

ヴィタリーに簡単に紹介され、

ジョンは慌てて姿勢を正した。

「よ、よろしくお願いしマス」

それからペコリと頭を下げると、

甲冑の男は優しげに笑い頭を下げた。


扉の奥に入ると外見に見合う豪華な廊下が伸びている。

床は柔らかい真っ赤な敷物、

明かりは火ではなく

魔術の明かりにより青白い光が灯っていた。

視線を上げると案内板が見え、

『相談窓口』『申請所』など。

神殿というより役所と言われたほうが納得ができる案内だ。


「それにしてもひとが少ないですね」

「夜は警備以外の仕事は終わっているメェ。

 残業なんて基本認めないメェよ」

「神様の世話とかで住み込みの職員もいるけどな。

 しばらくはその住み込み職員の空き部屋を使ってくれ」


そう言って階段を登りながら案内された先は、

集合住宅のような一角だった。

また違う警備室から鍵をもらい、

一番奥の部屋のドアが開かれる。


「豪華な部屋デス……」

ジョンからすれば

高級ホテルの一室と感じるほどの部屋だ。

ベッドがちゃんとあり、

シーツもシワひとつない。

窓からは街が一望でき、

チラホラと灯る淡い明かりがガラス越しに眺められる。

ガラスも気泡がまったく入っておらず、

高級品であることが素人目にも分かった。

さらに作業用の木の机や椅子も

見たことがない木材が使われている。

部屋ひとつに

どのくらいのお金がかけられているのか想像もできない。


「働くためにはいい環境に住まわせないとな。

 部屋の作るのに大工に給料も払えるし、

 良い部屋を作ることはひとや街を豊かにすることにつながる。

 この部屋を使わせるのも先行投資だから気にするなメェ」


ジョンが

『豪華なお部屋デス。本当にここを使っていいんデスか?』

と聞く前に、神様が先回りするように言った。

当然その表情も誇らしげだ。

「はい……」


(住み込みのひとたちがこの部屋を使ってるなら、

ヴィタリーサンや神サマは一体どんな部屋で寝てるんだろう)

と思ってしまった。

だが今は新しい情報の処理に困っている頭で聞くと、

頭の中が破裂するだろう。

ジョンはなにも聞かずに荷物をおろした。


「それじゃ朝迎えに来るから、

 今晩はゆっくりしていくといいメェ」

「か、神サマが迎えに来てくださるのデスか!?」

「それが?

 客人をもてなすのは当然だメェ」

「こういう神様だ。

 ご利益だと思って素直に聞いておけ」

「おやすみ、ジョン。

 ゆっくり休めよ」


神様が優しい声でそう挨拶をすると、

パタリと扉が閉まった。

ジョンは挨拶を返すことができず、

しばらくドアの前でボーッとしていた。

良ければ評価、

続きが気になりましたらブクマ、

誤字脱字が気になりましたら誤字脱字報告、

とても良いと思いましたら一言でも感想をいただけると

嬉しいです。


雨竜三斗ツイッター:https://twitter.com/ryu3to


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