表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/29

1-3 思ってた神様と違って困惑

「む、どうしたイーサ、

 少年が座り込んでるメェ」

お店に入ってきたのは大きなコートを着た小さな女の子と、

聖職者の着るような青い衣装の青年だ。


「ああ、神様とヴィタリーくんですか、いらっしゃい」

「神サマ!?」

まさかと思ってジョンはとっさに姿勢を正して頭を下げた。


だが下げた目線の先には、

裾から少し見える細い足と

一見するとブカブカのブーツ。

少し横を見ると貴族などが

履いている素材の良い靴。

視界には神様らしき存在は見当たらない。


「本当に、神サマ?」

ジョンは不思議に思って恐る恐る顔を上げた。

当然そこには先程いた幼い少女と

神官の服を着た青年しかいない。

へりくだる必要があるほどの神々しさを感じさせたりする存在や、

周囲を守る仰々しい神官たちもいない。


「ああ、こうみえて彼女はこの街の神様だよ。

 神様を中心に街ができるのは知ってるよね?」

「はい。神サマを見たことはないのデスが、

 僕の居た街もそうデシタ。

 ひとは神サマのため街を発展させ、

 発展に貢献したものは神サマからご利益を賜るって教わっていマス」


「メーの街は考えが違うけどそんな感じだメェ。

 ってイーサ! こう見えてとはなんだこう見えてとは!」

「パッと見は分からんってことだろう?」

「んなことはヴィタリーに言われなくても分かるメェ!」


「ごめんなさい。

 実際にこうして目に見える範囲に、

 神サマがいらっしゃるのは初めてで、

 信じられなくて……」

神様がガミガミと怒り出した。

それが分かると、

ジョンは頭を下げて

大げさにペコペコ頭をさらに下げ始める。

だが神様はジョンにガミガミするではなく、

ポンポンと肩を優しく叩く。


「うむ、だがそんなに頭を下げるものではないメェ。

 少年は悪いことなんてしてないだろう?」

「はい。ありがとうございマス」

ジョンが顔を上げると

神様の幼くも優しい笑顔があった。

見た目通りの歳ならば

決して見せることは難しいだろうという表情だ。

それを見てこの少女が神様だということを感じる。


「あまり見たことがないのなら、

 ちゃんと見ておくんだぞ!

 見られて減るものではないし、

 むしろ増えるかもしれないメェ」

続けて偉そうな少女みたいな口ぶりと表情で言った。

「はぁ……」

それを見てジョンはまたこの少女が神様なのか疑問を持ち始めた。

曖昧な声を出しながら首をかしげ始める。


「分からんかったら気にしなくていいぞ。

 神様もへんなこと言って知らないひとを困らせるな」

「メェ」

返事なのか、不服の声なのか、

神様は羊の鳴き声のような声を上げた。それから、


「それでイーサ、細い目を凹ませてどうした?」

「この少年がね、

 見たことない銀貨で支払いしたいって言うから困ってたんだ」

「見たことない銀貨?」


神様はそれを聞いて目を輝かせながら、

ずずいっとジョンに近寄った。

その動きと顔を見たヴィタリーは

あからさまに顔をしかめる。


「げっ。神様なにを企み始めたんだ?」

「企んだとは人聞きの悪い

――いや、神聞きの悪い。

 メーはお金稼ぎの機会を逃したくないだけメェ。

 それで少年、その銀貨を見せてくれメェ」

ジョンは慌ててポケットか銀貨と銅貨をありったけ手に持ち、

神様に差し出した。

「こ、こちらです」


 神様はその銀貨や銅貨をしばらくじっと見つめてから、

「イーサ、メーたちが彼の支払いをするメェ。

 そのかわり少年はメーたちに話を聞かせてほしい。

 どうだメェ?」

ニヤリとした表情のまま、そうコックのイーサに持ちかけた。


「神様の言うことには逆らえないし、僕はいいよ」

「あ、ありがとうございマス」

ジョンはまたイーサと神様の両方に向けて頭をヘコヘコさせた。

そんな様子に神様はまた優しくジョンの肩をポンポンと叩く。

「ほらほら、そんなにヘコヘコするなって」


「少年、本当にいいのか?」

神官のヴィタリーは目を細めながら、

座り込んだままの少年に問いかけた。


「いいデス。

 神サマの言うことに従わないのは悪いデスし、

 そもそも悪い話ではないと思いまシタ。

 ここで乗らないのはむしろ失礼だと思いマス」

「聞き分けのいい子はいいぞ~」

「なんで俺の方を見た?」


「それじゃイーサよ、

 メーたちにもご飯を頼む。

 メニューはおまかせするメェ」

「はい、かしこまりました」

料理長のイーサはお客さんにするのと同じ礼をして、

奥に入っていった。


「神様の話は長引きそうだ。

 これは当分帰れないぞ。

 何度も聞くが本当にいいのか少年」

「はい。ここまま何も話さずにいなくなるのは、

 失礼だと思いマスから」

「うんうん、やっぱり素直でいい子だ」

「だからなんで俺の方を見るんだって」



神様と神官のヴィタリーは、

ジョンが座っていた席の迎えに座った。

この様子だけを見るとまるで仲のいい兄妹か、

恋人同士にも見なくはない。


だが羊のようなモコモコとした髪、

長い耳、暖かそうで高級感のある衣装が、

庶民とも貴族とも違うことを無理やり感じさせてくる。


「あの、いまさから聞くのは遅いかもしれマセんが、

 神サマとこんなに気軽に、

 しかも同じ高さで話をしていいんデショウか?」


「確かに今更だな」

「場所によっては神は神官を通さないと

 ひとと話ができないなんてところもあるらしい。

 でもメーにとってはそんなやりかた

 めんどくさいだけメェ」

「俺も面倒だな。

 そんなの神官の仕事が増えるだけじゃないか」


「……僕のいた街とは随分違うみたいデス」

ジョンはそう言ってイーサが持ってきてくれたお水を飲んで、

無理やり納得することにした。


「ひとそれぞれ、

 神もそれぞれってことだメェ」

 神様はまた偉そうに腕を組んでうなずいてから、

「というわけで少年、

 君はどこから来てどうしてここにいるのか

 聞かせてほしいメェ」

 とさらに偉そうな口ぶりで聞いた。


「両親が亡くなって、

 さらに家が火事になって、

 ボクの能力やパラメータでは元いた街で働き口が見つからず、

 仕方ないので街を出て歩いていたところ、

 ここにたどり着きまシタ」


「そんなさっぱりと重たい話をまとめるな」

ヴィタリーは目を細くして言った。

まるで自分もひどい目にあったことがあるが、

こんなにさっぱりと語ったりはしないと

そんな深いことを考えていそうな顔だ。

「事実ですから」


対しジョンはあっさりとした口ぶりで答えた。

神様はその顔を真顔で少し見つめ続けてから、

「嘘はついていないようだ。

 正直者で結構メェ」

「はい。

 デモもし嘘をついていたら分かるみたいな言い方デシタね」

「分かるメェ。

 メーはそういう力を持って神に転生したからなぁ」

わざとらしく神様はニヤリとした笑みを見せた。


嘘をついているというよりは、

自分の能力を自慢するような言い方だ。

ジョンは首を引いて、

「う、嘘をつかないよう気をつけマス

……あまりつくつもりもないデスガ」

「よろしい」

嬉しそうにうなずく神様を、

ヴィタリーがなにか言いたげな顔で見ていた。


「さっきから気になってたんだが、

 元いた街では違う言葉を喋ってたのか?

 妙に言葉遣いがおかしいが」

「ヴィタリー、

 こういうのを『なまってる』って言うんだメェ」

「はい『アーングリヤ語』を話してマシタ。

 なのでなまってても許していただけるとありがたいデス」

「そんなの平気だメェ」

「街の神様がこんなんだからな、

 このくらい誰も気にしないさ」


ヴィタリーの軽口を聞くなり神様は

その肩をポカポカと叩き出した。

神様と神官という間柄ではなく、

ケンカするほど仲のいい男女を見ているような感じがする。

そんな気分がしてきてジョンは苦笑いするしかできない。


「ってことは君は『イポーニア語』と

『アーングリヤ語』の両方をしゃべるわけか」

「はい。あ、申し遅れました。

 ボクはジョンと言います」


「うむ!

 メーはメグミ、この街の神だメェ!」

「俺は神官のヴィタリーだ。

 ところでアーングリヤ語ってなんだ?」

「アーベジェーАБВ(アーベジェー)じゃなくて、

 ABCエービーシーの言葉だメェ。

 神官のやるランク付けとか、

 イポーニア語にも一部紛れ込んでるメェよ。

 モンスターって呼び方とかも元はアーングリヤ語だメェ」


「詳しいなメグミは」

「伊達に神の叡智を持ってない!」

ヴィタリーの意外そうな言葉を聞いて

神様は偉そうに薄い胸を張った。


「神サマはたくさんの知識を

『叡智』として得て生まれるっていうのは、

 本当なんデスね。

 神サマはどういう経緯で神サマになられたん――」

「おまたせしました」

ジョンが疑問を口にすると同時に

神様たちの食事がやってきた。


「おおっ、うまそうなシチューだメェ」

「腹が減る匂いだ」

「ではごゆっくり」

「イーサ、そういうことを言うと、

 神様は本当に寝る直前までいるぞ」

「もうお客さんも来ないだろうし構わないよ。

 ヴィタリーくんもおなかすいてるだろうし、

 ゆっくり食べていくといいさ」

そう言い残してイーサは奥へと引っ込んでいった。


「まったく、みんな神様に甘いんだから……」

そうぼやいてスプーンに手を付けて、

シチューを口に運ぶと、

「おっ、たしかにうまい」

とコロっと気分を変えた。

良ければ評価、続きが気になりましたらブクマ、誤字脱字が気になりましたら誤字脱字報告、とても良いと思いましたら一言でも感想をいただけると嬉しいです。


雨竜三斗ツイッター:https://twitter.com/ryu3to


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ