1-2 お金が払えなくて困ったところに救いの羊神様がやってくる
「さっきの馬車もあの街に向かうのカナ……?」
そんなことを思いながらジョンは舗装された道を歩いていた。
街の中ならともかく、街の外の道も使いやすくされており、
まるで街に来ることを歓迎されているような気分になってくる。
馬車が見えなくなった頃にようやく街にたどり着いた。
当然入るには手続きなどが必要だ。
そう思っていたが、
街に来た目的、簡単な手荷物検査だけで入ることができてしまう。
「ボクのような浮浪者当然の身分でも怪しまない……。
どんな街なんだろう」
拍子抜けした顔をしたが、
それすらも誰も怪しまなかった。
首を傾けながら門をくぐるとジョンは目を見開く。
傾いた首もまっすぐになるほどの光景が広がる。
「すごい街デス……。
夜なのに街中どこもこんなに明るいなんて」
明るいのは遠くからも分かっていたが街の一部だと思っていた。
なのに夜でも明かりを持たずに歩いていられるほどだ。
さらに様々な種族のひとが歩き回っているのも驚きだった。
ジョンの元いた街にはヒューマンと神様以外の種族はおらず、
この様子は文字通り別世界に来たような気分になる。
まるで読んでいた古代のおとぎ話や小説だ。
ヒューマンに獣人、有翼、エルフなどなど、
この世界にいる種族はほとんどいるのではないかと思う。
(ここの街を収めているのはどういう神サマなんデショウ……)
考えながらジョンは興味の赴くままに街を歩き出した。
中央の通りを歩いていくとたくさんの建物があるのが分かる。
奥には白い建物がまた連なっており、
大きな街であることが視覚的に見せつけられた。
「夜なのにまだやってるお店がある……。
仕事終わりのひと向けに営業してるデスね」
どの店からもご機嫌そうな客や、
匂いに誘われてドアを開く客が出入りしていた。
そのどれもが小綺麗な外観をした建物。
だがジョンはそんなおいしそうな店に入る気にはなれない。
「デモもちあわせがないから夕飯を安く済ませたい。
安そうで開いてるのは酒場……」
酒場であれば軽食やつまみがあるから腹を満たすにはよいのだが、
「うう、大きな獣人サンたちがいっぱい」
出入りしているひとを見て尻込みしてしまった。
もちろんヒューマンも混じっているのだが、
ジョンと比べてガタイはよく、
押されただけで吹っ飛んでしまいそうだ。
並ぶ酒場を横目に他の店を探すが、
店じまいにしている店も出てき始めていた。
早めに見つけないと食事も、
今晩の宿も見つからないかもしれない。
すると窯焼き粘土で建てられたお店を見つけた。
店はあまり大きくなく素朴な印象だ。
「あそこなら安くておいしいのが食べられそうデスね」
そう思ってすぐにお店に飛び込んだ。
「いらっしゃい。
席はほとんど空いているからお好きなところにどうぞ」
入ってすぐに出迎えてくれたのは細い目と耳をしたエルフだ。
エルフらしい薄い水色の髪に長い帽子を頭に乗せていた。
おそらくはここの料理長なのだろう。
店の中は料理長の言うとおりガラガラで、
客はジョンしかいない。
ジョンは入ってすぐそば街が見える席を選ぶと、すぐにメニューが差し出される。
「見ない顔と髪だけど、旅人さんかい?」
「はい、そんな感じデス」
「羊の肉とか食べたりしない?」
「食べないデス……。
地方によっては食べるって聞いたことありマスけど、それが?」
「いえ、この街では羊を食べることが禁止されてるから念の為ね。
今日は不足してる食材はないから、なに選んでくれても構わないよ。
決まったら呼んでね」
そう言うと料理長は奥へと引っ込んでいった。
(どうして羊の肉が禁止……?)
不思議に思いながらもメニューを開いた。
(すごい。まるで古代の製本技術で作られたようなメニュー表だ。
それが庶民的なレストランにも普及してるってことは、
ここは街全体がお金持ちなのかもしれない)
手触りの良い紙に驚きながらも、
きれいに印字されたメニューを見つめた。
(デモそうなると物価が高いかもしれない)
そう思いながら文字に目を通していくと、
「この街にもハンバーグはあるんだ……。
銅五〇〇なら手が出るしこれにしようカナ」
そう思ったジョンはすぐにハンバーグを注文した。
料理長がわざわざ注文を取りに来きて、
細い目のまま受ける。
料理が出るまでの間、
大きな窓の外から町並みを眺めていると
あっという間においしそうな匂いがやってくる。
また料理長がわざわざ運んできた。
給仕はいないのだろうか?
小さいお店だからいらないのだろうか?
「どうぞ」
「おいしそうデス」
不思議に思っていたが思考はハンバーグに持っていかれた。
庶民的という言葉がいい意味に聞こえてきそうな見た目だ。
さらに、腹をすかせて歩いていたというのもあってか、
とてもおいしそうに映る。
自然とジョンの目も街の灯りのように輝く。
「気に入ってもらえそうだね。
ごゆっくり」
料理長は嬉しそうに口角を釣り上げながら
ナイフとフォークを置いていった。
ジョンはすぐにそれを手に取り、
ハンバーグにナイフを入れる。
肉汁がこぼれてきた。
ナイフを入れるたびに
肉が跳ね返ってくるような気がする。
焼き加減もレア、
指導書通りに作ったのではなく
料理長のこだわりがあるのかもしれない。
さらに贅沢したい日に手軽に来れる値段。
この街がとても豊かに感じるような味だった。
さらに今日
歩き疲れた体力も回復させてくれるような気がしてきた。
あとは宿だがなんとかなりそうな気さえしてきて、
あっという間にハンバーグとおまけのパンを平らげてしまう。
「お早い完食だね。
金髪のヒューマンに初めて料理を振る舞ったけど、
お口にあったようでなによりだ」
「はい。ごちそうさまでシタ。
お金はこれで払いマス」
ジョンが銀貨をポケットから差し出した。
これなら銅貨でお釣りが来ると思ったのだが、
料理長は細い目をかすかにひらいて銀貨を見つめる。
「ん~、この街で使えるお金じゃないね。
これじゃ払えないよ」
「デハ両替をしにいきたいんデスが、
どこに行けば?」
「両替ってあったかなぁ。
僕もこの街の出身じゃなくて移住者だけど聞いたことないよ」
「おっ、オーマイガー……」
歩き疲れた疲労と、
思わぬ出来事に体の力が抜けて、
ジョンは声を上げながらその場にしゃがみこんだ。
「う~ん、僕も困ったなぁ。
いくら料理作るのが好きでも、
タダで作ってあげると神様に怒られるんだよなぁ」
料理長も帽子を置いて首をかしげた。
困ってはいるが、
お金ではない違う理由で困っているように見える。
それを不思議に思ったジョンも
顔を上げて料理長を見て首を傾げた。
するとそこで店に誰かが入ってきたようで、
ドアに付いていた鈴の音が聞こえる。
「いらっしゃい」
料理長が入り口に向かって挨拶をすると、
少年も思わず入り口の方を見た。
そこには自分と同じくらいの歳の男子と、
羊のような耳の生えた小さな女の子がいた。
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