1-1 羊神様、都合のいい人材とすれ違う
平原の石畳や砂で舗装された道を馬車が走っている。
向かう先は大きな街。
夜にも関わらず明るい灯りがともり、
にぎやかな様子を感じさせていた。
「ふふっ、おもしろいものを見つけちゃったメェ!」
その馬車の中で小さな女の子がごきげんに足をばたつかせていた。
ヒューマン基準で考えれば一〇歳程度の身長だ。
その身長や細い手足では
ブカブカになってしまいそうな大きな白いコートを着ていた。
ブーツも長靴のように感じさせる大きさのものを履いている。
厚底だがそれでも小さな身長はごまかしきれない。
銀色の長く毛皮のようにモコモコとした髪が揺れると、長い羊のような耳が見える。
一見すると羊の獣人族のようにも見える。
だがそんな種族はこの世界には今の所確認されていない。
世界が作り直されてから新しい種は生まれていなかった。
少女メグミはこの平原に生まれた神様だ。
『メグミ』という名前は古代語でいつくしむ、
神からの恩恵という意味がある。
「俺からすれば余計な仕事だと思うがなぁ……。
こういうことは考古学者なりを雇って
調べさせればいいだろう?」
神様の隣で疲れた顔をしている青年
――ヴィタリーはため息といっしょに言った。
仕事服である青い神官服もこころなしかだるそうに見える。
「そうだけど、メーの街にはそんな仕事をしてるひとはいないメェ。
あ~あ~、古代語が読めて、
物事をよく見ることができる優秀なひとが
仕事を探してフラフラしてないかメェ~」
「この世界そんなに都合よくできてないっての」
「分かってるメェ。ぼやいただけだメェ」
そう反論して今度は不満そうに足をバタバタさせた。
「だけど街に帰るのが遅くなっちゃってお腹が空いたメェ」
「今からでも神殿の料理人に作らせればどうだ?
頼めば作ってくれるだろう」
「残業なんてさせてなるものか!
それにメーが自身で経済を回さないでどうするメェ!」
神様は急に立ち上がり拳を握って演説するように力説した。
「はいはい。分かりましたよ。
もらっている給与は
ちゃんと使ってこそ意味があるんだろう?」
「そのとおりだメェ」
「でも本当はイーサの飯屋のご飯が食べたいだけだろう?」
「それもある!」
ご機嫌にうなずくと神様はまた座った。
するとふたりの乗る馬車が道を歩く少年を追い抜く。
「おん?
こんな時間に街に向かってるひとがいるぞ」
少年がふと目に止まった神様は、
馬車から身を乗り出して珍しそうに見た。
ヴィタリーも一応目を向けるが、
平原は薄暗く今日の月明かりでは表情までは見えない。
分かったのは彼がヒューマンであり、
ヒューマンにしてはあまり見ない金髪であることくらいだ。
「旅人かもしれないメェ?
格好も身軽だし行商人って感じもしないし、
傭兵とかそういう感じもしないメェ」
「神様適当なこと言ってないか?
旅人ならもっと大荷物だろ?」
「そんなことないメェ。
とにかく早速イーサのレストランに行こう!
レストランの前で下ろしてくれたら馬車の片付けとか頼むメェ」
「まったく……。申し訳ないですが頼みます」
「はいよ」
手綱を握る男は楽しそうに返事をした。
短いので続きを夜20時ころ投稿します。
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