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mission72 届かぬ想いを受け止めよ!


 何も言わない俺に対して、綴原はこちらを見ることもなく続ける。


「でも、先輩が俺をなんとも思っていないって言うのは分かっています。男だし。後輩としか思っていないし。何にも、そこにないことも」


 クラゲは、何も言わずに浮遊している。


「でも……何も、何も、ないのも……いや、で」


 綴原が、俺にどの程度の気持ちを持ってくれているのか。そこにどのくらいの大きさの何かがあるのかは知らない。


 それでも、その真剣な想いは伝わってきた。


「何か、あればいいって思って。先輩と過ごしたり、仲良く、楽しくしたり……とか、できたら、恋人みたいにって……」


 それは、俺が知らなかった話。

 俺が全く、気づきもしないで、意識もしてこなかった、綴原の想いだ。


「だから、願ったんです。願っていたんです。何か、きっかけがほしい。先輩に、意識してもらいたい。先輩の、そばにいたい。先輩と、先輩と――――」


 ただ、そんな切なる想いに、俺は応える術を持ち合わせてはいなかった。



「ここなら、俺は女の子です」

「姿だけでも、女の子で、きっと先輩の好みのはずです」

「普段は絶対に言えなかったこと、言いました」

「だから、意識してください」

「俺を、見てください」

「俺を見て、意識して、その上で、答えを出してください」


 今すぐじゃなくていいと。彼は言う。


「ゲームクリアまで……俺のことも、考えてください」


 だから、桐生すみれのバッドエンドに彼も困ったんだ。

 目的が達成されなくなるから。俺といる時間が終わってしまうだけだからと。


「綴原」

「聞きたくないです」

「それでも、先に話しておくよ」


 それは、せめてもの俺の誠意だ。


「気づかなくて……ごめん、も違うな。俺は全く気づいていなくて、今もすぐにどうこうとか、そんな話にはならない。……俺は、女の子が好きだし」

「……分かっていますよ。普通、そうです」

「普通かどうかって話じゃなくて……この世界で無理矢理ホモルートに入らせられそうになって余計に思ったっていうか……まあ、なんだな。なんか、女の子が好きなんだよ」

「全然理屈になってないです……」


 綴原の想いを否定することになる。今時男女の区別でなんていう話もある戸は思う。

 だけど、俺が女の子を好きだという想いも、事実で、曲げられないところなんだ。


「綴原が今委員長の姿をしているからと言っても、そう簡単に気持ちは切り替えられないと思うし……正直、自分の恋愛とかもよく分かってない。あと、ここゲームの世界だし」

「まあ……そうでしょうね」


 ここでいくら好きなキャラクターがいたとしてもゲームの世界で。現実世界へ戻ればただのデータ。付き合えるわけでも何でもない。できるとして、昔出ていた彼女たちのグッズを集めることくらいだ。


「だから……意識するとか、考えるとか。上手くは言えないし、結果はやっぱり変わらなかったってなって……傷つけることになるかもしれないけど、こうやって遊んだりするくらいはできるよ。綴原がそれでいいか……分かんないけど」


 正直、この世界で何回遊んだとしても、綴原を意識することも恋人的な好意を持つことも、きっと俺にはないだろう。


「それで、いいです」


 それでも、綴原は受け入れてくれた。


「気持ちは伝えたんですから、後は俺が先輩を意識させるだけです」

「多分……難しいと思うけど」

「そういうことを最初から言わないでください。傷つきます」

「ごめん」

 

 ぶくぶくと、クラゲのために水疱が下から湧き出ている。クラゲは相変わらず何も考えていなさそうな顔で浮遊して、傘を閉じて、開いて、繰り返しながら生きている。



「俺、頑張りますから」



 ソーダ水を飲み干した綴原は、笑って言う。



「先輩も、少しは覚悟しておいてください」



 それに返す言葉はないまま、そのまま岐路についた。



「そういえば、先輩は特殊能力何にしたんですか?」

「特殊能力?」



 綴原の告白には正直ビビったし何も返せないし、きっと今後も進展はしないしで申し訳なかったのだが、そんな空気を変えるように綴原も新たな話題を振ってくれた。ゲーム攻略についてはお助けキャラがいないので綴原がいてくれると非常に助かる。

 って、特殊能力ってなんだ。


「ほら、俺はバスケットボールで触手に攻撃してたじゃないですか。あんな感じで自分の得意なことと結びつけてピンチを打破できる能力というか」

「待て待て待て。知らん情報出てきたぞ。おい、カッス。どういうことだ」

『ぷん。我は知っているぷん』

「お前だけ知ってても意味ねぇんだよ!」


 綴原の前なので遠慮なくカッスを叩く。『まだいたんですかこの不細工』と綴原もカッスには辛辣だ。


「待った。知っているってことは何か? 俺はもうその特殊能力を手に入れているってことか?」

『そうぷん。何度も使ってるぷん』

「何度も……使ってる?」


 全く記憶にない。そんなピンチを打破できる能力……屋上から桐生と飛び降りたときのアレとかか?


『我とのテレパシーぷん』

「は?」


 確かに。

 何度か。何度も使ったことはあるが。


『番外misshon テレパシーを会得せよ! で言ってたとおり、神様にお願いして我がつけてもらったぷん』

「お前また大事なことを俺に話さずに決めちゃってたのか……?」

『もう大分前の話ぷん』

「いや確かに幼少期の頃の話だけど! だけど、特殊能力があればもっとなんかやりやすくなったりしてたわけじゃん! なんなん! このお馬鹿!」

『むきーっ! 我と話したいって言ってたアレは嘘だったぷん!?』

「知るかっ! お前とはいつでもどこでも適当に話せるだろうが!」


 俺とカッスがギャースカ言い合っていると、綴原がそこに割り込んできた。


「な、なんだよ。綴原」

「別に……ちょっと構ってほしくなっただけです」


 なんか可愛いことを可愛い顔して言い出した。

 会社の後輩だから。男だから。ということはもちろんあるが、この世界での綴原は委員長で、普通に可愛くて柔らかい女の子だ。上目遣いで見つめられると、なんだかこちらが悪いことをしているような気にさえなってくる。



「特殊能力がない可哀想な先輩には、俺がついていないといけませんね」

「そうだな……ピンチの時は、頼む」

「また貸しになるので。お礼は考えておいてくださいね」



 できるだけピンチにならないようにしよう。

 俺の貞操やら価値観やら色々なものが犠牲になりそうだ。



 何はともあれ。



『ぐぇっ! 何するぷん!』

「元はと言えばカッスのせいだろうがっ!」



 使えないマスコットキャラはともかく、攻略への味方が一人増えた……気がする。

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