mission71 転移者の正体を分析せよ!
話はまた少し前に遡る。
桐生を助けるためにてんやわんやしていた中で、委員長に助けられたときのこと。
『お礼は、次の日曜日のデートで』
と言われていたので。約束を守るためにデートをすることになったというわけだった。
「遅い」
「悪かったよ……」
そして、初手で失敗していた。普通に遅刻である。
「信じられない。初デートで待たせるなんて。よくないよ」
「太郎が朝からケチャップをまき散らさなきゃこんなことにはなってないんだよ」
「言い訳禁止」
「ごめん」
俺としては(太郎に)言いたいことは山ほどあるが、まあ言い訳と言えばいいわけでしかない。
『しかしあれはなかなか芸術だったぷんね。まさかケチャップでお地蔵様の建立秘話が書かれているとはぷん』
『その話広げる予定ないからな』
カッスは放っておいて。
「それで、デートって何すればいいんだ」
「それは考えてくるものなんじゃないの……」
「俺あんまりデートとかしたことないし……」
『童貞ぷん』
『やかましい』
まあ、お礼と言うからには俺から何かすべきか。委員長のことあんまり知らないんだけど。
「じゃあ、行きたいものとか買いたいものとか、なんかあれば付き合うけど」
「雑。もっと考えて」
「雑言うなよ……」
しまったな、桐生編が終わって気も抜けていたので、完全にノープランだ。
委員長の好きそうなもの……委員長。委員長。あの夜、バスケットボールを上手く操っていたあの姿を思い出す。
あれは、やっぱり。
「じゃあ、水族館でも行こうか」
「どうして?」
「俺は割合と水族館でぼんやりするのが好きなんだ」
「…………らしい」
「何か言ったか?」
「いーえ、なんでも」
微妙に不機嫌なんだか機嫌が良いんだか分からない委員長との謎デートは、こうして始まった。
始まりさえすれば案外なんとかなるもので。
「イルカショー次やるって! まだ席あるかな?」
「後ろの方でもとりあえず見れればいいんじゃないか。あ、ペンギンの餌やりその次あるぞ」
「案外色々なイベントやってるからちゃんと考えてないと回れそうにないわね……。あ、こっちでは企画展もあるみたい」
「いいな、全部回ろう」
ぼんやりする発言はどこへやらで。普通に水族館をイベント感覚で楽しんでしまった。ゲームの中とはいえ、普通に臨場感があって面白かった。戻ったら現実世界でも行きたいくらいだ。
「ちょっと休憩するか」
「うん。あ、あそこカフェあるよ」
「じゃあ買ってくるよ。何がいい? おしるこはないと思うけど」
「おしるこ?」
「あ」
つい、言ってしまった。
多分、委員長の正体に関係があることを。
「いつから……」
「あー……あの、バスケのフォーム見たときに。もしかしたらって」
会社の球技大会で。プロみたいなフォームでシュートを打っていたヤツのことを、俺はたまたま覚えていた。ひどく綺麗で。やっぱりイケメンがイケメンムーブするとすげぇなって。なんか変に感動した、その記憶。
「間違っていたら申し訳ないんだけど……綴原、だよな」
会社の後輩。男の後輩だ。
背が高くてイケメンで。割と何でもそつなくこなしてしまう先輩泣かせのできる後輩。
「うん」
その、俺が言った名字を噛みしめるようにして。
「そうです。綴原です。先輩」
彼は、あっさりと俺に正体を明かした。
間が持ちそうになかったので、飲み物だけ適当に買ってきて。クラゲを見ながら話始めた。
「綴原も……このゲーム興味あったのか?」
「全然。こんな恋愛ゲームなんて毛ほども興味ありません」
マジかよ。そんな世界に転移するなんて地獄じゃねぇか。
「まあ綴原は……こういうゲームやらなそうだよな」
「それが恋愛経験によるものからくる発言か、趣味的なところから来る発言か知りませんけど、少し失礼ですよ。先輩」
「ごめん」
綴原は去年入社した後輩。世話役として俺があてがわれたものの、正直優秀すぎてあまりお世話もできていない感じだ。だけど、先輩として一応敬ってはくれている。
俺がこの世界に来たあの日も、確か一緒に残業をして俺の顔が青くなっているのを気遣ってくれていたっけ。お汁粉味の謎のお菓子をくれた気がする。
「まあ、なんというか……お互い災難だな」
「そうですよ。先輩が倒れてこんなゲームの世界で遊んでいるなんて」
そういえば俺は倒れた扱いになっていたんだっけ。申し訳ない。
「遊んでいるわけじゃないが……まあ、ゲームだし遊んではいるのか」
「ゲームの世界でもなぜか変にピンチに陥っていますし、こっちは気が気じゃなかったですよ」
「ごめんて」
と言いつつも、何に対して謝っているのかはこちらもよく分かっていない。
整理すると、綴原は別にこのゲームに興味があるわけじゃない。ゲームクリアを目的としているわけでもないだろう。
そして、もしもあの言葉が本当だとすれば。
『あなたのことが好きだから……力になりたいの』
実は綴原が俺に好意を寄せていて、俺を追いかけてゲームの世界に転移してきた……なんてことになるのか?
普段の態度を見ていてもそんなことは毛ほどにもなかったと思うが。
「綴原がここに入った経緯とか……聞いてもいいか」
「だめです。自分で考えてください」
厳しい。なんで俺はゲームの世界でも後輩に冷たくされなきゃならんのだ。
とりあえず……気は進まないが、さっきの仮説を話してみるか。
「神様……っていう存在がいて、この世界には多くの望み・願いがあってそれらが多く交わったときに叶えるのが仕事……とかなんとか言ってたんだけどさ。俺は、このゲームのクリアを見てみたいと思ったし、仕事のことを考えなくてもいい世界に行きたいって思ったし、そこで楽しく過ごしたいって思ったからここに来たんだと思うんだよ」
「思考がロクでもないです」
「そこまでか!?」
冷たい後輩はとりあえずおいておこう。
「で、綴原がこのゲームに興味がないんなら……間違っていたらものすごく悪いんだけど」
「予防線張りすぎです」
「分かったよ。あー……つまり」
なかなか、正直自分からは言いづらいが。
「綴原が……実は俺のことが好き、で……俺をゲームの世界から助けたくて、来た。とか?」
綴原は何も言わない。ソーダ水に口をつけているだけで、特に何も言わない。目の前のクラゲは何も考えていなさそうな顔をしてふよふよと浮いている。浮いて、下がって、浮いて、下がって。そこには何もなさそうなのに。それだけの動きを繰り返している。
「半分、正解です」
ようやく、綴原は口を開いた。
「俺は、先輩が好きです」
ストレートな言葉と、ともに。
クラゲは何も考えていないかのように、浮遊して、落ちて、沈んでいく。




