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Case.1 桐生すみれの場合-6

「あれ……?」



 まただ。また、こうなってる。

 ベッドで寝て、起きてみると腕に傷ができている。



 傷口は浅くて、少しすればすぐに血が止まりそうなくらいのもの。深い傷ではないはずなのに、夜毎に傷が少しずつ増えている。傷ができた日は、体がひどく重い。



「おばけ……?」



 小さい頃、古井戸さんと一緒に逃げたあのおばけがまたやってきたのだろうか。

 怖いけれど。怖いけれど、少しだけ期待感が芽生えた。




 本当におばけが出たなら、古井戸さん達はまた助けに来てくれる?




 傷口をそっとなでて再び眠りにつく。



『本当は、分かっているんでしょう?』



 自分の心の声には、気づかないふりをして。





*     *     *





 あの帰り道から少し経ったある日のこと。

 放課後教室でいると、たまたま古井戸さんと赤来戸さんが戻ってきた。教室には3人だけ。相談をするのにはちょうどよさそう。



「桐生。この前の件だけど」

「ええ、覚えていてくださって嬉しいです」



 その言葉に古井戸さんが少し悲しげな顔をしたのはなぜだろう。覚えてるって言っていたけどな。


「以前、言っていらっしゃいましたよね」

「…………ああ」


 なんだかばつが悪そう。もしかして、覚えてないのかな。


「能力を駆使して化け物から君を守るのが赤来戸太郎の使命。って」


 赤来戸さんは相変わらずニコニコしている。古井戸さんは……何かと話しているのかな? 使い魔?


「実は、私の家に……その、おばけが出るようになったみたいで」


 でも、二人とも馬鹿にすることはなく私の話を最後まで聞いてくれた。おばけについても信じてくれているみたい。良かった。



「もしよかったら……今度の土曜日、家に泊まりに来ていただけませんか?」

「もちろん! 血の雨が降っても太郎と一緒に泊まらせてもらうぜ!」

「えっ、なんでそんな食い気味なのほーちゃん!?」



 私もこんなに古井戸さんが食いついてきたのは初めてだった気がする。少しびっくりした。

 でも、二人が泊まりに来てくれるのも嬉しいし、これでおばけが解決したら傷もなくなるはず。お祖父様とお祖母様はまだ気づいていないだろうけれど相談したら心配させてしまうだろうし、気づく前に解決しないと。


 そう思って、二人を誘ってから何度か続きの相談をしようと思ったけれど、なぜか昔みたいに二人とはうまく話せない日が続いた。二人はこんなに近くにいるのに。



「ねえねえ、桐生さん確か誕生日近かったよね」



 クラスメイトの中安さんが話しかけてくれた。最近、よく話しかけてくれて嬉しい。古井戸さん達とハンバーガーを食べに行った後、春日野さんや箱森さんが話しかけてくれるようになって、中安さんが今は一番話しているかもしれない。


「ええ。今度の土曜日が誕生日なんです」

「そうなんだ! 空いてる?」

「その日は夜は用事があるのですが、昼間なら空いていますよ」


 そんな会話を中安さんとしたので、中安さんがお祝いしてくれるのかと思っていたら、鹿峰さんからサプライズ誕生日パーティーのお知らせをもらってしまった。もしかして……私は知らなかったふりをした方が良いのかな?


 でも、誕生日パーティーをクラスメイトに開いてもらえるなんて嬉しい。準備から一緒にいて鹿峰さん達には謝られたけど(鹿峰さんがうっかり間違えてしまったらしい)、クラスメイトみんなからお祝いをしてもらえてすごく嬉しかった。



 なぜか、そこに古井戸さんと赤来戸さんはいなかったけれど。



 用事があったのかな? 用事があったなら仕方ないよね。うん。そう。仕方ない。

 夜も来てくれるかな。忘れてないかな。もしかして、おばけなんて嘘だって、どうでもいいって思っちゃったかな。



 誕生日パーティーは楽しかったはずなのに、どこか心が落ち着かなくて。

 みんなと離れた後は余計に不安で、不安で。

 クラスメイトがたくさん来てくれたはずなのに、お祝いしてくれたはずなのに心から楽しめてなくて。申し訳なくて。



 家に帰って、苦しい気持ちでいっぱいになった時に、チャイムが鳴った。



「来て……くださったんですね」



 二人の姿を見て、安心して涙がこぼれそうになった。当てつけのように聞こえてしまっただろうか。そうじゃなくて、来てもらえたのが嬉しいだけのはずなのに。



「もしかしたら、今日はお会いできないんじゃないかと思っていましたから……」



 つい、不安が口をついて出てしまった。


「大丈夫だよ。ほら、あれだ。ちゃんと来たし。今日はお化け退治だろ? ドラゴンがなんとかしてくれるさ」

「うん、お化けのことなら僕に任せてよ!」


 いつもどおりの二人に安心する。泣いてしまったのはばれていないだろうか。



「ありがとうございます……! あ、とりあえず中にお入りください。レモン水をお入れしますね」



 指で涙を拭って二人を案内する。途中、お祖父様とお祖母様に会ったときも和やかに会話していた。二人は誰とでもすぐに仲良くなれるんだな。いいな。



「で、どんなお化けが出て困ってるんだ?」



 部屋に入ってすぐ古井戸さんから質問をされた。といっても、起きたら腕に傷があるだけなので説明がしづらい。


「その、私も……姿を見たことはないんです」


 その言葉に二人とも首をかしげる。見てもらった方が早いだろうか。



「ただ、その…………これ、が」



 二人が息をのむ音が聞こえた。



「お化けの仕業、だと……思うんです」



『本当に?』



 その声に体を震わせる。




『本当に、おばけ?』




 自分の心が語りかけている、その声に。

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