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Case.1 桐生すみれの場合-5

 前回のあらすじ。

 なぜか古井戸さんが私に思い切り土下座をしていた。


 話を聞いてみると、老人ホームでの出し物のボランティアに協力してほしいとのことだった。そんなことでなんでこんなに土下座してまで頼むんだろう……何か、裏でもあるのかな。



「それに……そうした出し物なら、私よりも適任の方が」

「桐生しかいない」

「ええっ!?」

「桐生以外考えられないんだ」



 私以外考えられない、だなんて。恋愛小説でもそんなに出てこない言葉をいきなり出されて少し胸が高鳴ってしまう。もちろん、古井戸さんはそんな意味で言っていないんだろうけど。でも、そこまで私を求めてくれるのは嘘でも嬉しい。裏があったら嫌だけど。


「桐生じゃなきゃ駄目なんだよ……」

「どうして、そんなに……」


 何度も言われると顔が熱くなってきてしまう。古井戸さんは気づいているんだろうか。もしかしたら、本当に。恋愛的な意味もあって――。



「これが、今の桐生に必要だと思ったからだ」



 違った。少しがっかりした。残念。古井戸さんのばか。


「私に……必要」


 でも、古井戸さんが今の私に必要だと思う、なんていうのなら。何か考えがあるのかもしれない。

 少し考えて、古井戸さんがこちらをまっすぐ見つめているのを見て、ドキドキして、また考えるふりをして、少しもったいぶった後で答える。



「分かりました。お引き受けします」



 古井戸さんの瞳の中にも私が映っている。真面目な顔をしたつもりだけれど、少し頬が紅潮して嬉しそうな私の顔。古井戸さんの目には、私はどう映っているだろうか。


「じゃあ、実行委員は私と古井戸さんで?」


 二人で実行委員になれば、色々と話すことができてもっと仲良くなれるのかもしれない。友達らしいことも、もっといっぱいできるかも。少し胸が弾む。


「いや、太郎だ」

「え! 赤来戸さんなんですか?」


 想定外の答えに存外大きな声が出てしまった。


「嫌なのか?」

「嫌ではないのですが……。流れ的に古井戸さんかと思っていました」


 もちろん、赤来戸さんが嫌なわけではない。赤来戸さんも大事なお友達で、そうなんだけれど。じゃあ、古井戸さんは赤来戸さんと私を実行委員にするために土下座を……? やっぱり裏でもあるのかな?


「俺は副委員長の仕事もあるからな。手伝いがいるようならいつでも言ってくれ」

「分かりました」


 なんだか少し突き放されたような気もしたけれど、古井戸さんが手伝ってくれるなら大丈夫だろう。この後、急に鹿峰さんが来てびっくりしたけれど、古井戸さんが手慣れた様子で追い払ってまた二人きりになった。

 

「この後はどうしたら良いでしょう? 赤来戸さんは帰られたようですし」

「ああ、太郎には俺から話しておくから、今日は大丈夫だ。……いや」


 古井戸さんは少し考えて、




「一緒に帰らないか?」




 二人きりの時間を続けてくれるようだった。




*    *    *





「桐生。俺達小さい頃会ったよな」



 急に昔の話を振られてドキリとする。そういえば、昔の話はまだ再開してからはきちんとしていなかったっけ。



「ええ。私の見間違いかもしれないのですが……おばけみたいなものに追われていたところを、古井戸さんに助けていただいて、図書館のところでお話しして。多分、古井戸さんにとってはなんてことないことかもしれませんが、私にとっては大切な思い出です」



 おばけ、なんて子供じみたことを言ったけれど引かれていないだろうか。恐る恐る古井戸さんの横顔を伺うと、


「俺も覚えてるよ」

「え……?」


 先ほどと同じように、こちらをまっすぐ見て。



「ちゃんと、覚えてる」



 その言葉とともに、微笑んでくれた。



 嬉しい。



 嬉しい、嬉しい、嬉しい!

 古井戸さんにとって、小学1年生の夏休みに、1回だけ会った女の子っていうだけのはずなのに。小学校でも中学校でも会っていないのに。それでも。


 覚えていてくれたんだ。


 風が吹いて桜が舞う。地面に落ちていた花びらも、私の気持ちと同じように舞い上がっていく。



「古井戸さん」



 言って、いいだろうか。

 頼って、いいだろうか。



「あのときの、あの言葉」



『さっき話しかけていたのは俺の使い魔だ。能力を駆使して先程のような化け物から君を守るのが赤来戸太郎の使命だ』



 子どもの言葉。嘘かもしれないような、アニメや漫画に影響を受けたようなそんな言葉を。




「まだ、有効ですか?」




 その言葉も、覚えてくれているだろうか。



 もし、もしもその言葉が本当なら。

 赤来戸さんや古井戸さんが、私を守ってくれるのなら。



「ああ、有効に決まってるだろ」



 俯いた私に古井戸さんの表情は見えない。でも、その言葉はひどく優しくて。温かい声が胸に染み入ってくる。




「……良かった」




 誰にも相談できなかったことを、二人になら相談できる。

 おばけなんているわけないとか、昔のことって何とか、そんなことは言わずに。ちゃんと覚えていてくれて、今も私の力になるって言ってくれているんだ。



「なあ、桐生。そのことなんだが……」

「あ! すみません。それで思い出しました。今日が本の返却日で」



 古井戸さんとたくさんお話しできた嬉しさで忘れていたけれど、うっかり本の返却を忘れていた。ちょうど思い出せて良かった。


「ごめんなさい、閉館まであと少しですし、今から行ってきますね!」

「いや、あの。ちょ」


 走って行かなきゃ間に合わない。急がないと。



「じゃあ、先程の話は赤来戸さんと一緒の時に」



 古井戸さんに言ってすぐに駆けだした。



 うん。本も読んだけれど、これももう必要ない。

 だって、古井戸さんと赤来戸さんが助けに来てくれるんだから。




 今度二人に相談しよう。





 私の家に急に出るようになった、おばけの話を。


大変更新が遅くなってしまいすみません……。ようやく書く時間がとれて書けて嬉しいです! 時間がもっともっとほしい……。


桐生すみれの言っていた「あの言葉」は「mission13 ピンチからヒロインを死守せよ!」で、この物語の裏側でほまれがいかに適当な対応をしていたかは「mission45 桐生すみれの攻略を開始せよ!」で確認可能です。よろしければそちらもご覧ください。


お読みいただきありがとうございました!

また、更新していない間もアクセスいただいたり感想やお気に入り登録など、ありがとうございました!

嬉しいです、力になります!

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