Case.1 桐生すみれの場合-2
前回のあらすじ。
おばけに追いかけられた先で変な男の子達と変な話をした。
「ほ、ほーちゃん? これは調教ラブストーリーのヒロインのセリフで……」
「知ってるよ! それはどうでもいいけど、初対面の小学生女子に言っていいセリフじゃないんだよっ!」
「そうなの?」
セックスについての話がまだ続いている。
「あ、あの。セックスって何ですか?」
思わず聞いてみたけれど、
「僕も知らないんだけど」
赤来戸さんは言い出しっぺなのに知らなかった。ドラマの台詞なのかな?
見かねた友達さんはあきれながら口を開く。
「二人とも、その言葉は大人になる過程で自然と知っていく神聖な言葉だ。軽々しく口に出していいもんじゃない」
怒るみたいに言われたので、多分あんまり口に出しちゃだめなんだろう。家庭教師の先生にドラマはあんまり見ちゃいけないって言われたけど、こういう言葉があるからかな。
「なるほど、セックスって深いんだね」
「だから口に出すな!」
赤来戸さんはまた怒られていた。なんだか、そんな劇みたい。
くすっと思わず笑ったけれど、その拍子になんだかちかちかしだした。あれ? おかしいな。
「桐生、なんかごめんな。……桐生?」
立っているのがつらくなって、その場でお行儀が悪いけれど横になろうとする。
地面、地面に寝て。少し休まなきゃ。お水がほしい、のど、かわいた。
ふらふらとしていたけれど、地面には届かなかった。
「ドラゴンっ、桐生を日陰のベンチまで運ぶぞ!」
「分かった!」
友達さんと赤来戸さんが抱き留めてくれたらしい。
そのまま体が動かされるのを感じたけれど、ぼんやりとして頭も体も働かないので身を任せる。
「すみません……」
「謝るのはこっちの方だよ。ごめんな、あんなところで待たせて」
友達さんが膝枕をしてくれたみたい。でも、本当は待っていなくて、友達さん達を追いかけていたんだ。
そのバチが当たったのかも。ごめんね。うまく言えたかな。
口があんまりうまく動かないから、動いていたらいいんだけど。
その後も、友達さんは私の頭をなでたり、少しでも涼しくしようと思ってか手で扇いだりしてくれた。
そんなに涼しくはないけれど、その行為自体がなんだか心地良い。
「今日はなんだか……初めてのことばかりで、不思議な感じです」
不思議な男の子。不思議なおばけ。
思い切り走って、守ってもらって。変な子だけど、私が倒れても優しい。
「ここへ来るのは初めてで、少し不安だったんですけど……でも、そんな不安消しとんじゃいました」
水族館まで。本当は一人で行けるか不安だったけれど、水族館には行けなかったけれど。
でも、なんだか全部ふっとんじゃった。
怖くてドキドキしたけれど、友達って、守ってもらうのって、こんなに安心するんだ。
「また、遊んでいただけますか?」
断られたらどうしよう。そんな不安もすぐに消してくれるように、
「次は太郎も一緒に、な」
友達さんは、そう言ってくれた。
風が吹いてきた。近くに田んぼがあるせいかひんやりとして涼しく感じる。心地良い風に目を瞑って、時たま開けて、友達さんの顔を見る。
『桐生っ! 来い!』
いきなり、私の手を引いてがむしゃらに守ってくれた男の子。
変なポーズもするし、なんだか変なことも多いけど、なんだか気になる不思議な子。
金色に輝く髪は、日に透けてさらに眩しい。
あなたは、だれ?
それが聞きたかったのに。結局聞くことができないままその日は別れてしまった。
明日は絶対に聞こう。
そして、赤来戸さんとみんなで遊ぶんだ。あ、一緒に水族館に行ってもいいかも!
おかあさんのプレゼントも一緒に選んでくれるかな。
ドキドキしながら眠りにつく。
幼少期、それが二人との最初で最後の時間とは知らず。
次の日から、街をいくら探しても二人を見つけられないなんて知らずに。
幼い私は、満足そうに夢の世界へ旅立った。




