Case.1 桐生すみれの場合-1
これから、少し自分語りをしようかと思うけれど。
私、桐生すみれという人間は。
とかく、どうしようもない人間だということを先に記しておきたい。
「今度のお祭りの日ね。その日までに一回退院しようかって。先生と今話してるんだよ」
小さい頃の私は、その言葉に瞳を輝かせた。
この街に来てからすごく退屈だったから。
おかあさんは体調が悪くて病院でずっと入院してばかりだし、友達もいないし。
そんな私の大きな楽しみにお祭りの日が加わった。
カレンダーに大きな花丸をつけておく。この日。この日にはきっと楽しいことがあるから。
それまではなんとか我慢しよう。体調が悪いのはおかあさんのせいじゃないもの。
早くおかあさんが良くなるために、今頑張っているんだから。私がわがままを言っちゃいけない。
「すーちゃん、すいかはやしたわよー」
「はーい!」
すいかをしゃくしゃくとかじりながら考える。そうだ、お母さんにプレゼントをするのはどうだろう。
サプライズのプレゼント。
きっと喜んでくれるはず。内緒でしっかり準備しなくちゃ。
部屋に戻ってお小遣いを確認する。
そんなに多くはないけれど、お年玉の残りもまだあるし、きっと大丈夫。
そうして、家を出て水族館へ行くことにした。
水族館には、おかあさんの好きなペンギンのグッズがたくさんあるはず。
何がいいかな。ぬいぐるみかな。それとも、使えるノートとかふせんとかの方がいいかな。
色々と思い浮かべながら歩いていたけれど、どうやら前を向いていなかったらしい。
「きゃっ!」
どうやら、誰かとぶつかってしまったようだ。思い切り尻餅をついたので痛い。
べそをかきそうになるけれど、泣かないようにこらえないと。
スカートをはたいて立ち上がる。
と。
「桐生っ! 来い!」
男の子に思い切り手を引かれた。そして、そのまま走り出す。
「え? あの、え?」
後ろを見ると、おばけ? だろうか。
何やら、うにょうにょしたものがこちらに向かってきている。
なんだろう。捕まってはいけない気がする。でも、この男の子は一体……?
「ポーズっ!」
「ええっ!?」
男の子がいきなり変としか言えないポーズを取ったので、思わず大きな声が出てしまった。
あのうにょうにょもだけれど、この男の子も変な人なんだろうか。
「え? 私、あれ?」
気がつくと、なぜかさっきより少し進んだ場所に立っていた。
「桐生! 手を取れ! 走るぞっ!」
どうして私の名前を知っているのか分からない男の子は、また私の手をつかんで走り出す。
変な子……だけど、悪い人じゃないのかな。
「あ、あのっ。あなた、さっきすごいポーズを」
「してない! 気にするなっ! 黙って走れ!」
してたよ。してたよ! なんで嘘つくんだろう。
家族以外には敬語を使いなさいって言われているから敬語で話したけど、なんだか乱暴に言われたので傷ついてしまう。嘘もつくし。
「カッス! 図書館までの道案内頼むぞ!」
「サポートキャラだろお前はっ!」
「直進か右左で言え!」
「補足が分かりづらいわ!」
目に見えない何かにずっと怒鳴っているし、怖い。
早くこの子から離れたいけれど、おばけはもっと怖いし、とにかく走るしかない。
そうして手を引かれるがままにたどり着いたのは図書館だった。水族館へ行きたかったのに。
「はぁっ……はぁ。なんだったんでしょう? 今の……。それに、ん……はぁっ。あなた、ずっと誰かと話してましたよね」
息切れしながら、聞いてみる。
もし、この子も変な人だったら急いで離れないと。
「私の名前も知っていらっしゃったようですし……はぁっ。一体何者なんですか?」
男の子は私をじっと見て、しばらくしてから口を開いた。
「桐生すみれ。俺は赤来戸太郎の友達だ」
あからい……のお友達? だれ?
「え? あ、赤来戸太郎さんのお友達……ということは、あなたは結局どなたなんでしょう?」
「それはどうでもいい」
「え?」
よくないよ。答えてよ。この人きっと、不審者の人だ。
「さっき話しかけていたのは俺の使い魔だ。能力を駆使して先程のような化け物から君を守るのが赤来戸太郎の使命だ」
よくわからないこと言ってる。
ええと……怪しくないと考えると、この人はさっき使い魔さんに怒鳴っていて、あのおばけから私を守ってくれて……あれ? でも、守るのは赤来戸さん?
「いや、でも。それだと使命があるのも赤来戸太郎さんで。結局あなたは一体」
「まあ、あとはあそこにいる赤来戸太郎本人から聞いてもらおうか」
誰もいなかった。
図書館の方には、誰もいなかった。
しばらくそちらを指さしていた男の子は、頭を抱えて座り込んでしまった。どうしたんだろう。
「もうやだ……なんなの、なんなのなのこれ」
「あ、赤来戸太郎さん……の友達さん。どうかされましたか?」
名前が分からないので、こう話しかけるしかないけど。
なんだかすごく泣きそうになってる。
「桐生。頼むから、ここで。この場所から動かないで待っててくれ。お願いだから。お前は裏切らないで」
「えぇ……えっと。はい。何がなんだか分からないのですが、承知いたしました」
私がそう言うと、そのまま男の子はどこかへ行ってしまった。
何か空中に向かって話していたけど、使い魔さんが本当にいるのかな?
少し、ドキドキする。
この街に来てはじめての大事件だ。
ここにいてって言われたけど、少しだけ、バレないようについていっちゃおうか。
怪しいけど守ってくれたし、きっと悪い人じゃないのかも。
そんなことを思って、早くなりすぎないように走りながら、赤来戸さんの友達さんを追いかけてみる。
追いかけた先にはもう一人の男の子がいた。砂場で何か作っている。桃かな?
あ、おばけがきてる。あぶないよ! はやくはやく!
先の方を走りながら二人を見ているので会話まではさすがに聞こえない。
でも、あのおばけから赤来戸くんと思われる男の子の手をひいてまた逃げている。
不思議な男の子。
言葉遣いは乱暴だけど、きっと悪い人じゃないんだ。
急いで図書館の玄関前に戻って息を整える。あの友達さんに追いかけたのがバレないように。落ち着いて落ち着いて。
あのおばけがなんなのかは分からないけど、とりあえずここは安全みたいだ。
二人は無事におばけからは逃げられたらしくこちらに戻ってきて、私を見ながら何かを話して、話して、話して。
わりと長く色々と話してから私の方へ来た。何を話していたんだろう。
「あ、お帰りなさい。えっと……そちらの方は赤来戸太郎さんの友達さん、のお友達ですか?」
息が切れているのはバレていないだろうか。
赤来戸太郎さん、なんて言ったら追いかけたのがバレるかもしれないから、さりげなく知らないふりをして声をかけてみる。
「桐生。コイツが赤来戸太郎だ。お前を助けたのも、まあコイツだ」
さっきの男のはそう言うけど、赤来戸さんは何もしていなかったよね?
「はじめまして、赤来戸太郎だよ。よろしくね」
赤来戸さんはそう言った後、
「ねぇ、セックスしよ」
「トレンディっ!」
謎の言葉を言って、友達さんに思い切りはたかれていた。
セックスって、なんだろう?
お読みいただきありがとうございました!
読んでいただけるとすごく嬉しいです。励みになります。ありがとうございます。
ここから少し桐生視点の幼少期からの思い出~70話までの振り返りになります。
今回は、mission12~14くらいの頃のお話です。懐かしい。
1話で完結するはずが長くなってしまいました……。
少しの間、メインヒロイン・桐生すみれの自分語りにお付き合いいただければ幸いです。




