mission70 キャラクター達の成長を見届けよ!
少ししてからの話。
桐生すみれは少しの間学校を休んで、それからまた学校へ出てきていた。
桐生の口からクラスメイトに詳細が語られることはなかったが「色々問題が解決した」とのことで、クラスメイトにもため口で接するようになった彼女は、以前よりも柔らかい雰囲気となり、話しかけやすくなったことで、ますますマドンナの地位を強固なものにしていた。
「すみれちゃんおはよー」
「すーちゃん、今日も美人さんだねー」
登校途中でも、声をかけられて大人気。一般庶民である俺とは身分が釣り合わなくなったような気がして少し話しかけにくいが。
「おはよー、桐生さん。今日もいい天気だね」
「赤来戸くんおはよう。ふふっ、今日も元気だね」
太郎はいつも通り話しかけていた。これが陽キャのメンタルってやつか。
「太郎殿! あちらに状態が綺麗なお地蔵様を見つけたでござる!」
「本当!? すぐ見に行かなくっちゃ」
「おはよう、ベスボ。ドラゴン、遅刻しないようにしろよ」
そうして、太郎とベスボは行ってしまい、俺と桐生だけが残される。
「私には挨拶してくれないの?」
「……おはよう、桐生。元気そうだな」
「おはよう。誰かさんのおかげですっかり元気だよ」
こんなに小悪魔みたいな感じのことを言うヤツだったか。意地悪く行っているだけで内容は可愛らしいものだが。
「何にも聞かないの?」
「聞いてほしいなら聞くけど」
「案外冷たいんだ。あんなに私のために泣いてくれたのに」
「桐生も泣いてただろ」
「うん……いっぱいいっぱい泣いて……すっきりした」
その言葉通りの顔で空を見上げる。今日は太郎が言うとおり、本当にいい天気だ。
「ありがとう。本当に……色々してくれて。すごく嬉しかった」
結局のところ、家族の問題を解決したのも桐生や桐生のじいさん達だろうし、俺のやったことは時空の狭間から逃げ回っただけだけど。
「体は大丈夫?」
「笹川のよくわからん力のおかげで、まあなんとか」
「そっか。笹川さんにもお礼言わなきゃね」
「あいつはいいよ」
「でも、焚きつけてくれたんだよ。大分乱暴だったから、私もそこは気になるけど」
ごめんね。と桐生が謝る。こちらの思いとしては、謝ってほしいのは笹川にだけど。
「元気そうで何よりだ」
「うん。本当にありがとう。近いうちに、お礼もちゃんとさせてね」
お礼は別に、と言いかけたところで、逃げられないようにか腕を組まれた。
「ね。ほーちゃん」
さらさらの髪を耳にかけこちらを見上げるようにして笑う桐生は、やはりメインヒロインらしい可愛さで。太陽のまぶしさもあって、思わず目をそらした。
そうして、このときから彼女は俺をあだ名で呼ぶようになった。
◇ ◇ ◇
『中濱さんっ! 行かないで!』
『わしには……あと100人の待っている彼女がいるんじゃ』
『そんなっ……私は、それでもあなたのこと』
ここで良い感じに効果音を鳴らす。この後は、宮藤まなみの歌だ。
♪~ 中濱さんのトゥルーラブストーリーは、いつも情熱的で面白い ~♪
その後も、施設の方の名前やエピソードが出てきて、老人ホームのみんなが笑顔で合いの手を入れながら聞いている。
♪~ ここはみんなが笑顔。みんなの笑顔が生きがいの種 ~♪
老人ホームでのボランティアは、こうして大好評で幕を閉じた。ベスボのところのハムレットも短いながらよくまとめられていて、評判が良かったようだ。
「まなみちゃん! 私あなたのファンになっちゃった!」
「素敵な歌だったわ。歌詞に私たちも入れてくれてありがとうね」
「ワシの……鎖骨にサインを入れてくれんかのぅ」
おいジジイ。さすがにそれはセクハラだろ。
「ミュージカル、大変だったけど楽しかったねー」
「ああ、ドラゴンにあんなに演技力があるとは恐れ入ったよ」
「悪い男……演じられてた?」
「ああ、良い感じに悪かったよ」
「やったぁ!」
太郎も喜んでいるし何よりだ。結局、桐生イベントにはならなかったイベントだけど。
「ところで太郎。それなんだ?」
「ああ、施設長さんがくれたんだ」
「モップ…? 清掃道具かなんかか?」
「カツラだよ!」
「ひっ!」
どんなコミュ力でカツラをもらえたのかは分からんが、とりあえずそこに触れるのはアレなのでちょっと離れておこう。と。
「あ、ごめん」
宮藤にぶつかった。
「ん。大丈夫。こっちこそごめん」
「でも良かったな。みんな笑顔になって。最後に施設の理念まで入れるのは考えられなかったよ」
「良い理念だと思ったし、そういうのがちゃんと施設の中にあるなぁって感じたから……」
髪をいじっている宮藤の頬が少し赤らんでいる。久しぶりにたくさんのファンもできて照れくさかったのか。
「人に向き合うって、大事ね。子役の時にはちゃんと意識できてなかった」
「ああ、来るもの全部自分のファンって言うか、人のことちょっろ! とか言ってたもんな」
「わーっ! わーっ! もうその話はなし! 黒歴史だし反省したからやめて!」
宮藤もあんな時代があったのに変わったものだ。あの頃に比べると、色々経験をして、荒んだときもあったけど良い成長をしたんじゃないだろうか。
「……色々、ありがと。ここにいなきゃわかんないこと、アンタが言うとおりあったから」
そういえば入って早々転校しかけていたのを引き留めたんだっけ。桐生の攻略も失敗したし、宮藤のステータスが太郎に合っているなら、次の攻略対象への乗り換えも考えないとな。
「どういたしまして。これからも太郎が世話になると思うからよろしく」
「なんでアンタはいちいちアイツを絡めるのよ、気持ち悪いわね……」
そうして、老人ホームのイベントが終わってさらに少しした後、あるものが桐生の元へ届いた。
「重大ニュース! プレゼントがようやく届いたよっ!」
鹿峰が空輸したらしいミシシッピアカミミガメである。いくら重大ニュースで桐生へのプレゼントだからといって、学校にカメを持ってくるのはいかがなものか。
「かみつくのかな……」
「わかんないけど可愛い顔してるよねっ! おいでっ! いたっ!」
噛んだ。
「くぉーっ! 離れないし! 何してんのこのカメっ! 川に捨てるよっ!」
「生態系を破壊するな」
どうでもいい気がするが、それ桐生へのプレゼントだろ。
「ありがとう。大切にするね」
なんとかアホの鹿峰からカメをひっぺがして桐生に渡す。
「桐生には噛まないんだな……」
「飼い主って分かってるのかもね。ふふっ」
「楽しそうだな……名前とかつけるのか」
「うん。友達にプレゼントもらうのってはじめてだし。名前……名前かぁ」
少し考えて、何か思いついたらしい桐生は俺にちょいちょいとそばに来るように手で促し、そっと耳打ちをしてきた。
「ほーちゃん、ってつけちゃおうか」
……絶対、俺の反応を見て楽しんでるだろ。
そんな感じで、元気で少しやんちゃになった桐生すみれは、今日も楽しく学校生活を送っている。
「……ほーちゃん、やっぱり桐生さんのこと」
新たな攻略ルートと、新たな火種も生まれ、俺の攻略は続いていく。
お読みいただきありがとうございました!
これにて桐生すみれルート完結(攻略失敗)です。




