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mission69 本音の言葉を伝えよ!


 遊園地に落ちもの系のアトラクションがある。

 あのお尻がひゅっとするような、ずっと落ちているうちに意識が飛んでしまいそうになるあのアトラクション。


 今俺は、屋上から桐生すみれを抱えて飛び降りながら、それでも着地が安全な分、ああ、あれはやはりアトラクションなんだなぁとしみじみと感じていた。



「いっ――――!」



 地面に足から落ちた衝撃を電気が走ったようにアニメで描写されることがあるが、あれはあながちまちがっていないように感じる。足だけではない。全身に衝撃がすごい。痛みがすごすぎでまともに喋れないし、どこが痛いのかきちんと考える思考能力さえ奪われる。


「古井戸さんっ! 大丈夫ですかっ?」


 抱えていた桐生は無事のようだ。しばし桐生抱えたままの桐生のおなかに顔を埋める形となるが、それはさすがに勘弁してもらいたい。


「あ、上から――――」

『うにょにょにょにょ』


 触手は屋上からなんとかこちらへ来ようとしている。確か1階にもいたし……このままじゃ、捕まってしまう。

 少しでも逃げるためによろよろとそのまま歩き出そうとして、桐生に止められた。


「古井戸さん、こっちへ! 歩けますかっ?」


 桐生に連れられて物陰に隠れる。


「古井戸さん、大丈夫……ですか?」

「……………け、ぃだろ」

「え……?」

「大丈夫な、わけないだろっ!」


 大丈夫なわけがない。屋上から人一人抱えて落ちてきたんだ。


「俺は、太郎とは違うから……っ! 死ぬほど怖かったし、足も痛いし、笹川はわけわかんねぇし、どうしようもねぇよ!」


 無事に着地できて、生きているだけでも褒めてほしい。それでも、解決策は見つからないままだ。


「俺は、主人公じゃないから……桐生の話を聞いても、なんにもできなくて。触手にも捕まりたくないのに、もう逃げ場もなくて……ほんと、どうしたらいいのか、俺だってわかんねぇよ……」


 ああ、顔がぐしゃぐしゃになっているはずだ。恐怖なのか、無事に降りられた安堵なのか、桐生に弱音を、文句をぶつけてしまっている情けなさからなのか、涙か鼻水かよく分からないもので、顔がいっぱいだ。



「それでも、桐生が……助かってほしいよ」



 死んでほしくない。なんとかしてこの問題を解決してほしい。手立てなんてまるで分からないけれど、桐生が周囲に助けを求めることで、少しでも何かが変えられるなら。

 桐生すみれなんてただのゲームのキャラクターで、バッドエンドを迎えても俺は現実世界に戻るだけで。バッドエンドなんて何度もほかのゲームで見てきたはずなのに。俺は。



『ここへ来るのは初めてで、少し不安だったんですけど……でも、そんな不安消しとんじゃいました』

『また、遊んでいただけますか?』

『……頼もしいです!』

『ありがとうございます……。お二人に相談して、良かった……』



 浮かんでくるのは、桐生から向けられた言葉ばかりだ。



「俺が……桐生を、助けたいよ」



 触手が迫ってくる。足を負傷している俺も、桐生も今度は逃げられない。

 なら。



『カッス』

『ぷん……まさか』

『今までありがとな。そこそこ楽しかったぜ。ウザかったけど』

『ウザいとかは……言うもんじゃないぷん』



 桐生すみれのバッドエンドルートに至らない道は、もうひとつある。

 俺が、この時空の狭間に飲み込まれてしまえば、そこでこの攻略は終わるからだ。立ち上がって、触手と対峙する。



「古井戸さん……何を」

「桐生」



 別に、桐生すみれがバッドエンドルートに向かったとしても、また新たな桐生すみれがキャラクターとして現れるだけで、俺の性癖がずっと異常になることと天秤にかけられたものではないかもしれないけれど。



「ちゃんと、人を頼れよ」



 そうして、時空の狭間に飲み込まれる。





 そのとき。



「やめてぇっ!」



 全速力で駆け寄ってきた桐生すみれが俺を抱き寄せて、触手から引き放した。



「人も頼る! ちゃんと助けてって言う! 話もする! だから、だからっ! 古井戸さんを連れて行かないでっ!」



 強く俺を抱きしめて、その場にへたり込む。俺を、守ろうかとするように。


「ちゃんとするっ! ちゃんと、本当にするから! お願いします。お願い、だから……古井戸さんを……」


 泣きながら叫ぶ桐生の言葉に、触手が少しずつ消えていく。

 ああ、カッスはちゃんと正しいことも言っていたのか。



「ごめんなさい、古井戸さん。巻き込んで、痛い思いさせて、ごめんなさい、ごめんなさい……」



 俺を強く抱きしめて胸に顔を埋めている桐生には、消えゆく触手は目に入っていないのかもしれないけれど。



 ああ、これでやっと、桐生は解放されたのか。




 なんとなく、そう思えて俺も目を閉じた。




    ◇     ◇     ◇





「古井戸さん……っ! 目が覚めた?」



 目を開けて飛び込んできたのは、桐生の泣きはらした顔だった。ただ、俺を見てぐしゃぐしゃなのに、その顔はひどく喜んでいることは分かる。


「ふふっ……おはよう……」


 その横で余裕たっぷりに微笑んでいるが諸悪の根源じゃねぇか。何をしに来た笹川。


「ひどいなぁ……せっかく治してあげたのに」

「笹川が……?」

「うん。笹川さんが怪我とか飛び降りて悪くなったところとか、なんか色々全部治してくれたんだって」

「それは……マッチポンプ感があって素直に礼を言いにくいが」


 俺の微妙そうな表情に笹川は言う。


「だって……あのままだと何も進まなさそうだったから……。こういうときって……ほら、刺激……が大事なんだよね……パミュリャン」

「パミュリャンのせいにするな」


 なんでもあのとき足にはガチで神聖な槍みたいなものを刺していたらしい。なんで躊躇しないでそんなことできるんだよ。治せるのはすごいけどさぁ。


「でも……ふふ、うまくいったなら……よかったんじゃない」

「まあ……それはそうだけど」


 不服だが一応笹川に礼を伝えて、それぞれの帰路につく。笹川とは別れ、桐生と一緒にかかしのあった道に戻り、スーツケースを拾ってから桐生の家へ。なんだか、桐生とは何を話して良いか分からず、月がもう十分に沈んでしまった道を桐生と静かに歩く。


「古井戸さん」


 家が見えてきたところで、桐生は口を開いた。


「これ、お母様にもらったものなんだ」


 桐生がつけていたペンダントのことか。バッドエンドでも意味ありげに映っていたな。


「多分、お祖父様達やお父様にお話をして、お義母様達とも、これから合わなくちゃいけなくなると思うから」


 ペンダントを握って、一呼吸置いてから桐生はこちらを見て強く願った。



「だから、勇気をくれないかな」



 そのペンダントは、魔法のペンダント。

 桐生の母親の思いが詰まった、子ども向けの宝石のようなガラス玉が入った、見ようによっては安物とも言えるそれだ。ただ、桐生がすごく大切にしてきたことが分かる。


「お母様が、ここにいつも魔法をかけてくれていたの」


 桐生の母親がおそらくそうしていたように、俺もペンダントを両手で握りしめる。

 桐生の人生がうまくいくように、なんて精一杯の願いをかけて。



「ありがとう……」



 本当の気持ちを泣き叫んでから、桐生は少し砕けた話し方になった。

 いつも敬語で話していたが、これが本当の、いつもの桐生すみれだったのかもしれない。



「ありがとよ」



 桐生を家に送り届けて、ばあさんと桐生がいなくなったタイミングでじいさんから礼を言われた。


「太郎が助けられたら良かったんですが……」

「こっちにとってはどっちでも同じってことよ。すみぴーが、楽になれたんならよォ」


 その後、少しして家に帰る。太郎の待つ、古井戸ほまれの家だ。



「ほーちゃん、おかえり」



 いつもと変わらぬ笑顔で太郎が迎えてくれた。



「ただいま……ドラゴン」



 俺の留守中、俺の無事を100%の全力で祈ってくれていたらしい太郎は。



「見てみて! これだけの祭壇を準備するのには時間がかかって」

「俺の部屋ぁ!」


 俺の部屋を主にネギで魔改造して、祭壇を作り上げて全力で祈ってくれていたらしい。なぜ俺の部屋で。



「この九条ネギがね」

「ネギは……すごい匂いがしているから、朝少し食べようか……」



 嬉しくもない日常が帰ってきたことを実感して、ひどく疲れてベッドに横たわる。




『あーっ……ネギくせぇ』

『我もちょっとおならが出そうぷん』

『それは出すな』





 もう少し、俺の攻略は続きそうだ。






misshion complete!

桐生すみれ バッドエンドルート 回避


お読みいただきありがとうございました!


桐生すみれルート、あと1話のエピローグを残して終了です。

桐生すみれの攻略失敗とバッドエンドを避けるお話ははじめから決めていたものです。内容は何度か遂行しながら考えましたが、ゲームの主人公でもないほーちゃんにできるすべてを使って本音でぶつかり合ったことで、すみれも乗り越えられたのではないかと思います。


大変わがままで贅沢な話にはなりますが、ギャルゲー舞台だとイラストが見てみたくなりますので、もしどなたかイラストが得意な方がいらっしゃったら描いていただけるととても嬉しいです……!


後書きまでお読みいただきありがとうございました。

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