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mission67 未来をつかむために奔走せよ!

 次の日、夜。

 桐生すみれがバッドエンドを迎える日だ。


 太郎は何かしているようで部屋から出てこないし、こうしたときに古井戸ほまれの両親は示しを合わせたかのように出てくることはない。ゲームの強制力のようなものなのだろう。


「行くか」

『ぷん』


 玄関の明かりを消して外へ出る。眩しいくらいの月明かりで外の方が明るいくらいの夜だ。そんなともすれば素敵な夜に、


『うにょにょにょ』


 久しぶり、と言わんばかりに時空の狭間こと大量の職種が湧き出ていた。


「行くぞカッス! 道はこっちで合ってるな!」

『あ、うん。えっと……そうぷん!』

「合ってるんだろうな!? サポートキャラ!」


 夜は特に触手の数が多いんだからしっかりしてくれよ。夜になったばかりだから桐生すみれがいつ出てくるかまではわからないが……とりあえず家の近くにいればなんとかなるだろう。家まで触手に追いつかれないように、最初から飛ばしすぎないように調整しながら走る。


『あっ!』

「なんだカッス!」

『桐生すみれぷん!』


 ここでか? 桐生の家まではまだあるはずだが……先に動き出していたのか?


「どっちだ?」

『あっちぷん!』


 足に力を込めて道を曲がる。桐生、桐生、桐生。

 どうやって止めていいかもわからない。家のことの解決方法なんて俺にはわからないし、なんて声かけをしていいのかもわからない。


 それでも。



 桐生を助けたい。


「――――っ、桐生!」


 かかしがそこにいた。


『なぁんだ、かかし(案山子)かぷん』

「か、かし……だと?」


 このタイミングで道の真ん中にかかしがいることがそんなあるか? あとカッスのくせに賢そうに漢字もつけてんじゃねぇよ。それならルビでもふっとけ。


『時空の狭間が来てるぷん!』

「誰のせいだろうなぁっ! くっそ!」


 道の真ん中になぜかいたかかしはそのままにとりあえずまた走り出す。くそっ、桐生の家の方向と逆の方向に来ちまった。


「カッス、次どこで曲がればいい?」

『えっと、えっと』

「こっちだな!」

『こっち……ではないぷん!』

「はよ言え!」


 このポンコツサポートキャラが! こっちは現実世界に帰ってからの性癖がかかってるんだよ!


「次はっ!」

『ぷん、ぷん。西の方角……えっと西は』

「なんで毎回東西南北で言うかなぁ! ああもう!」


 この道からして西は……左の方か。曲がった先には。


『うにょにょにょにょ』

「あっ…………」


 挟まれた? 時空の狭間に。


「カッス、これは……」

『積み、だぷん……』


 前も後ろも時空の狭間。逃げ場はない。


『わ、我が思いきり臭いおならを出せば触手の動きが止まる可能性も微量ではあるけどある気がするぷん……』


 周りに細道などの抜け道はない。塀を……上っている間に追いつかれるか。解決策が確実ではないし汚いし俺も被害を受けそうだが、カッスのおならに頼るしかないのか……? 思い切り臭いおならって今までの非じゃないのか?


 だけど。


「桐生を助けるためだ。カッス、頼んだ」

『ま、任せるぷん! ふおおおぉぉぉぉおおおおおおおお!』


 こういう場面で仲間キャラが出す声の割に、この後の展開が想像できるからか嬉しくない溜めの叫びだった。


『うにょにょにょ』

「カッス、まだか!?」

『下手すると中身が出てしまうからこっちも必死ぷん!』

「もうこの際出てもいいよ! 中身は!」


 臭い的に言うならその方が良いのだろう。絵面は最悪だけど。


『じゃ、じゃあ全力でいくぷん! ぷおおおぉぉぉぉおおおおおおお』

「そこの不細工。見苦しいまねはやめてくれる?」


 カッスの叫びは冷たい声にかき消された。


『うにょにょにょにょ!?』


 後ろの触手の動きにも変化がある。苦しんでいる……のか? 少しして、触手が数を減らし、消失していくその先に、人影が現れた。


「……委員長?」

「こんばんは。月が……きれいだね」


 文豪の言葉遊びのようなその言葉をそのまま受け取って良いものか悩むが、どうやら助けてくれたらしい。


「だめだよ。油断しちゃ」


 言いながら、前側の触手に攻撃をかける。あれは……バスケットボールか? 何らかの力が込められているのか、投げたボールは触手を倒し、彼女の手に必ず戻ってくる。


「すぐ安心しちゃうの、よくないよ」

「それは……その、助かった。ありがとう」


 聞きたいことはたくさんあるが、時空の狭間はまだまだ湧いて出てくる。早く桐生の元へ行かないといけない。


「委員長もこっちに」

「私はあなたを助けに来たんだけど」


 だから行けない、という彼女を、こんな危険な場所に置いていっていいものか。


「気にしないで。私はあなたの手助けに来ただけ。触手好きになんてなられたら困るもの。あなたは桐生すみれのルート改変だけに集中してくれればいいよ」


 そして「ああ」と思い出したように口元に指を当てて妖艶に微笑む。



「お礼は、次の日曜日のデートで」



 そのまま、触手の元へかけていく。俺よりはアレに対抗できる手段もある。ならば、彼女の言うとおりここは任せよう。


「――委員長も、気をつけろよ!」

「ん……まずは自分を心配してね」


 髪をかき上げた彼女は、いつかどこかで見たようなフォームで触手を倒していく。あれは、確か会社の球技大会で――――?


『急ぐぷん! こっちからも来てるぷん!』

「わかった! カッス、次は?」

『この道をまっすぐぷん!』



 道にかかしがいた。

 戻ってきてんじゃねぇよ。



『はわわ』

「はわわじゃねーよ! この可愛くねぇマルチが!」


 色ぐらいしか共通点はないが。比べるのも可哀想だ。


「とりあえずさっさと桐生のところに」

「私が……どうかしましたか?」


 聞き間違えようのない、この涼やかな声は。

 薄い紫色の髪にヘアバンド。お嬢様らしい清楚な服装。少し痩せたのか、顔色が良くないのは夜の暗がりだけが原因じゃないだろう。そして、彼女の傍らにはゴロゴロと音を立てるスーツケース。




「こんな夜中に……どうしたんですか? 古井戸さん」



 これから死が確定している彼女は、




「今日は月が……とても綺麗ですね」




 月の精のように、儚げに笑った。

読んでいただきありがとうございました!

ブックマークなどもありがとうございます。嬉しいです、励みになります。

少し書きだめができたので桐生すみれルート完結までは毎日更新できそうです。


途中文章中に唐突にかかしが出てくると混乱するかと思ってなんとなく(案山子)とつけてみました。

マルチは説明不要かもしれませんが、例の緑髪超絶可愛いメイドロボです。

「マルチ はわわ」で検索すると出てきますが、割とマルチーズの略もマルチというようでそちらも引っかかります。犬好きの方も是非。

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