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mission65 転移者の登場に対応せよ!


 すぐに頭をフル回転させて考える。

 今の言葉の意味は? 彼女はこのクラスの委員長だったはずだ。攻略キャラではない。ただのサブキャラクター。他のモブと違ってきちんと顔があるだけの。


 いや、本当にそうか?


 それにしては、入学式から目が合ったり、一緒に委員になったりとやけに接点が多かった。


『私も、同じ転移者だから』


 転移者。現実世界から彼女もやってきているのだとしたら、何が目的だ? 俺は仕事のことを考えなくて済む世界で楽しく過ごしたいと考えて引き摺り込まれたが、彼女は…?


「混乱してる? 予定外のこと起こると固まっちゃうのは変わらないよね。可愛い」


 委員長は俺を面白がるようにいたずらっぽく笑う。変わらない、というのは現実世界と同様、ということか。


「……誰だ、お前」


 現実世界でこんなふうに俺をいじったり、まして可愛いなんていう人間の心当たりはない。


「姿が違うとやっぱり分からないか…。私は姿が違っても分かったんだけどな」

「残念ながら現実で可愛い扱いをされたことがないんでな……」

「いつも思ってたんだけどね。全然気づいてくれないから」


 誰だ、誰だ誰だ誰だ? 佐々原さん、皆川? それとも秋野?

 違う。どれも違う気がする。周りの人間だけを思い浮かべても、心当たりは全くない。それもそのはずだ。


『あなたのことが好きだから力になりたい』


 そんなことをいきなり抱きついて言うやつの心当たりなんかない。むしろ……罠のようにも感じる。


「それは申し訳なかった。悪いけど、誰か教えてくれないか? 協力してもらえる理由や……力になれると思った理由も」


 現時点で信頼なんてできない。とりあえず率直に聞いてみるが……どうだ。

 委員長は少し考えて、不敵な笑みを浮かべて口を開いた。



「桐生すみれのバッドエンドを回避したいんだよね」



 直接は答えず、そんなことを言う。彼女は、俺……というよりも太郎が、桐生すみれのバッドエンドに入っていることを知っているのか。そして、バッドエンドという言葉を使うということは、この世界がゲーム世界であることも知っている。転移者というのは嘘ではなさそうだ。


「それが私の目的にも合致するからだよ。私は、この世界をまだ終わらせたくないの」


 その言葉が嘘であるようには聞こえない。彼女には彼女なりの目的があってこの世界にきた……考えられるとしたらそんなところか。


「私の正体については保留にさせてもらえると嬉しいな。当ててもらえると、もっと嬉しいけれど」


 そう言いながら、俺に近づいてくる。


「バッドエンドに入っている以上、もう主人公……赤来戸太郎には何もできない。できるとしたら、あなたが頑張るだけ」


 聞きながら、カッスにテレパシーを送る。


『カッス、委員長の言うことは本当か?』

『ぷん。主人公はボートに乗って進んでいるだけみたいな存在ぷん。ルートが決定してしまえば進むしかないぷん』


 なら、委員長の言うとおり俺がなんとかするしかないんだろう。


「俺は、何をすればいいと思う?」

「あはっ、そこまで頼っちゃう? そうだな……」


 背の高さ的には見上げられているはずなのに、その愉しげな表情はこちらを見下しているようにも感じる。華奢な手の指を1本だけ立て、そっと口元に当てた彼女は。



「キスしてくれたら、いいよ」


 

 挑戦的な瞳のまま、とんでもないことを言い出した。


『キスしてくれたらいいらしいぷん』

『今復唱はいらないんだよ。それにいきなりそんなことできるか』


 見知らぬ人間にいきなりキスできるほど、自分は恋愛経験豊富ではない。


「キスっていうのは……お互いに好きな気持ちがないとできないだろ」

「ロマンチストだね。私は好きだから問題ないよ」


 その言葉がそもそも信用できない以上、ここでそんなことをするのは愚策でしかないだろう。

 くそ、どうする。どうやって切り抜け……



「古井戸くーん。お昼たべ……あっ!」



 こういう時に、一番助けにならなさそうな箱森ひよりがやってきた。


「あ、あの……なんだかお邪魔しちゃった、カナ?」


 なんでいきなりおじさん構文みたいなしゃべり方を急にしてくるんだよコイツは。


「邪魔も入ったことだし、今回はここまでだね」


 俺だけに聞こえるようにそう言って、委員長は静かに去って行った。ひとまず危機は去った……か?


「な、なんかただならぬ雰囲気だったけど、まさか古井戸くん」

「お前の考えるまさかになることはこれまでもこれからもないな」

「そうなの!?」


 まさか何を考えたんだよコイツは。


「で、箱森は昼ご飯か?」

「うん。この前私の作ったジュースをボロクソに言ってくれたじゃない? だからそのリベンジでお弁当を作って」

「委員長にまだ用があったんだった。じゃあな、箱森!」

「思いのほか逃げ足が速い!?」


 あの地獄のようなジュースと同じ味がする弁当なんて地獄超えて死界だ。桐生よりも先に俺の命が持たない。


「さてカッス」

『ぷん。さっきの委員長のことぷんね』


 いつになく鋭いカッスに若干不安さえ覚えるが、本来サポートキャラとはこういうものだ。頼れるだけ頼ろう。


「俺以外にも転移者がいる……なんてことはあるのか」

『ぷん。よくあることぷん』

「よくあるならちゃんと説明しとけ!」


 何真面目な顔で言ってるんだよ。お前が説明していたら無駄にドキドキしなくてすんだじゃねぇか!


『我も忙しいぷん』

「そんなふうに見えたことは一度たりともなかったけどな……」

『むきーっ! 我がこの毛並みを整えるのに毎日どれぐらい費やしていると思っているぷん!』

「ゲームキャラの毛並みなんて気にしたこともねぇよ!」


 そして言われてもその良さは特段わからなかった。触りたいとも思えない毛並みだ。


「ということは、委員長以外にも転移者がいる可能性もあるのか」

『あるかもしれないしないかもしれないぷんね』

「なんでそんなふわっとしているんだよ……」

『我にもわからないぷん』


 何もわからないサポートキャラだった。


『ただ、神様も言っていたぷん。多くの望みや願いが交わった時にその望みが叶えられるぷん』

「そんなこと言ってたか……?」

『mission2 マスコットキャラと仲良くせよ! で確かに言っていたぷん』

「わざとらしくもないただの解説ありがとうな、カッス」


 言われてみればそんなことが書いてあったかもしれない。ということは、委員長のあの言葉は嘘ではなく、委員長には委員長の叶えたい望みがあって、この世界に引きずり込まれたということか。俺よりは余裕がありそうだったけど。


「あの言葉を信じるなら敵ではないってことか」


 しかし、俺を好きだと言ったりキスを求めてきたりと対応の厄介度は割合高めだ。


『面倒くさいからさっさとキスしてしまうぷん。どうせゲーム世界だから現実世界ではキス童貞のままぷん』

「他人事だと思って適当ぬかしてんじゃねぇよ」


 誰かわからないなんで自分のことが好きかもわからない人間相手に早々キスできるか。



「それはそれとして」



 有益ともいえる情報がひとつあった。



『バッドエンドに入っている以上、もう主人公……赤来戸太郎には何もできない。できるとしたら、あなたが頑張るだけ』



 桐生すみれを救う方法。


 それを考えて、実行するのは俺か。



 先の見えない生存ルートは、手をいくら伸ばしても、今は届きそうになかった。

繁忙期で更新が滞ってしまってすみません……。

次の話は今日書けたので、近い間隔で更新できそうです。


ついでに以前書いていた短編を更新するので、よろしければそちらもどうぞ!

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